16 / 36
03-1.カイルの主張
「発情期じゃなければ意味がありません」
カイルは断言した。
通常のオメガならば、そのような条件はない。
しかし、カイルは生まれつきのオメガではない。
「そうなのか?」
「そうです。そのくらいの知識は持っていてください」
カイルは頬を膨らませた。
「性転換の妙薬は副作用を減らす代わりに妊娠しづらいのです」
カイルは布団の中から出て、服を着始めた。新しい下着を身に付ける。
「ですから、子どもを望むなら、愛人を――」
「愛人はいらない」
「――そうですか。すみません」
カイルはすぐに謝罪をした。
愛人を薦めるのには理由がある。
三十歳であるアーサーの後継者を産むのに、カイルは自信がなかった。
月に一度の発情期でうまく孕めるとは限らず、元々の体はアルファであるからこその弊害として、受精しにくい問題があった。なにより、流産もしやすい傾向がある。
「なぜ、そこまで愛人を持たせようとする?」
アーサーには理解ができなかった。
アーサーにとってカイルさえいれば、それでよかった。
「言ったでしょう」
カイルは諦めたように口を開いた。
「俺は子どもを産める確率が低いのです。大公家の後継者は必要です。ですから、女性の愛人を作るべきだと思ったのです」
カイルも愛人など作ってほしくはない、しかし、すべては大公家の為だった。
「子どもは必要か?」
アーサーは問いかける。
……なにを言っているのか。
答えは決まっていた。
「当然でしょう」
カイルは肯定した。
「俺はその為にオメガになったのですから」
カイルはアルファ性を捨てたくはなかった。しかし、実家の為に捨てたのだ。
そこまでしてオメガとなり、アーサーと両想いになれたのは運がよかった。オメガを飼い殺しにする人だって存在する。都合のいい性処理として扱われる可能性もあった。
「バース性にこだわるのならば、カイルが産めばいい」
「ですから、俺では確率が低いと言っているでしょう」
「毎日、中に出していれば、そのうち、孕むかもしれない」
アーサーの言葉にカイルは口を閉ざした。
確立をあげる為にはそうした方が良いのはわかっていたからだ。
……本当に俺でいいのか?
オメガになり切れていないのを感じる。
昨日、性転換の妙薬を飲んだばかりだからだろうか。
「……正直に言えば、不安なのです」
カイルはため息を零した。
「体はオメガに変わりつつあるのは自覚しています」
カイルは腹の奥が疼くような感覚を知っている。
快感に敏感になり、尻の穴の中が女性器のように濡れるのも自覚している。その奥には子宮ができつつあることもわかっていた。
しかし、性格は変わらなかった。
一般的なオメガのように穏やかなお人よしには、なれなかった。
「でも、性格は以前と変わりはありません」
カイルの性格はアルファそのものだ。
有能であり、自尊心が高い。そして、他人に自分の番が触れられるのを許せない。
「性格は生まれ育った環境によるものだ」
アーサーは否定も肯定もしなかった。
その代わりに持論を口にする。
「アルファであれと育てられたのならば、そのように育つだろう」
アーサーは違った。
幼い頃に両親を殺された以降、目立つことのないように抑圧されて生きてきた。欲を出さないようにと言い包められて育ってきた。
「この歳になって性格が変わるわけがない」
アーサーは性格が作られるのは幼少期であると思っていた。
だからこそ、断言できた。
「番契約が成立した時点でカイルはオメガだ」
アーサーはバース性に関する知識が乏しい。
それでも、番が成立するのはアルファとオメガだけだと知っていた。
「……アーサーは強いのですね」
「そうでもない」
「そうでなければ、言い切れませんよ」
カイルは不安だった。
その不安をかき消してしまうような言葉だった。
「俺が心配をしすぎだったようです」
カイルはアーサーに笑いかけた。
「俺がアーサーの子を産みます。ですので、愛人は許しません」
「最初からそのつもりだ」
「そうですか。それはなによりです」
カイルは安心した。
……愛人を作られるのは嫌だったのか。
大公家の為と自分自身に言い聞かせていた。
しかし、本音では嫌だった。
……変な話だ。
貴族が愛人を作るのは一般的な話だ。仲の良い両親ですらも、外に愛人を作っている。だからこそ、そういうものだと思っていた。
……独占欲でも抱いたか。
オメガ特有の気質だろうか。
それとも、自身の性格によるものか。
カイルには区別がつかなかった。
「それでは続きを――」
「いたしません。朝から起きて来なくて使用人たちが困惑してます。なにより、アーサー、午後から仕事の予定が入っているでしょう」
アーサーの提案をカイルは容赦なく断る。
それに対し、アーサーか肩を落とした。
「セックスが気に入ったのですか?」
カイルは言葉を選ばず、直球に尋ねた。
「そうだ」
それに対し、アーサーは頬を真っ赤にさせながら、頷いた。
「それはよかったです」
カイルは確認しただけだった。
他に意味はない。
「他の人ともしてみたいですか?」
「そんなつもりはない」
「そうですか。では、毎晩の日課にいたしましょうか」
カイルは淡々と話を進める。
……毎晩もしていれば、そのうち、発情期に当たるだろう。
そうすれば、子を孕む確率が上がるかもしれない。
カイルは子を諦めたくなかった。
ともだちにシェアしよう!

