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03-1.カイルの主張

「発情期じゃなければ意味がありません」  カイルは断言した。  通常のオメガならば、そのような条件はない。  しかし、カイルは生まれつきのオメガではない。 「そうなのか?」 「そうです。そのくらいの知識は持っていてください」  カイルは頬を膨らませた。 「性転換の妙薬は副作用を減らす代わりに妊娠しづらいのです」  カイルは布団の中から出て、服を着始めた。新しい下着を身に付ける。 「ですから、子どもを望むなら、愛人を――」 「愛人はいらない」 「――そうですか。すみません」  カイルはすぐに謝罪をした。  愛人を薦めるのには理由がある。  三十歳であるアーサーの後継者を産むのに、カイルは自信がなかった。  月に一度の発情期でうまく孕めるとは限らず、元々の体はアルファであるからこその弊害として、受精しにくい問題があった。なにより、流産もしやすい傾向がある。 「なぜ、そこまで愛人を持たせようとする?」  アーサーには理解ができなかった。  アーサーにとってカイルさえいれば、それでよかった。 「言ったでしょう」  カイルは諦めたように口を開いた。 「俺は子どもを産める確率が低いのです。大公家の後継者は必要です。ですから、女性の愛人を作るべきだと思ったのです」  カイルも愛人など作ってほしくはない、しかし、すべては大公家の為だった。 「子どもは必要か?」  アーサーは問いかける。  ……なにを言っているのか。  答えは決まっていた。 「当然でしょう」  カイルは肯定した。 「俺はその為にオメガになったのですから」  カイルはアルファ性を捨てたくはなかった。しかし、実家の為に捨てたのだ。  そこまでしてオメガとなり、アーサーと両想いになれたのは運がよかった。オメガを飼い殺しにする人だって存在する。都合のいい性処理として扱われる可能性もあった。 「バース性にこだわるのならば、カイルが産めばいい」 「ですから、俺では確率が低いと言っているでしょう」 「毎日、中に出していれば、そのうち、孕むかもしれない」  アーサーの言葉にカイルは口を閉ざした。  確立をあげる為にはそうした方が良いのはわかっていたからだ。  ……本当に俺でいいのか?  オメガになり切れていないのを感じる。  昨日、性転換の妙薬を飲んだばかりだからだろうか。 「……正直に言えば、不安なのです」  カイルはため息を零した。 「体はオメガに変わりつつあるのは自覚しています」  カイルは腹の奥が疼くような感覚を知っている。  快感に敏感になり、尻の穴の中が女性器のように濡れるのも自覚している。その奥には子宮ができつつあることもわかっていた。  しかし、性格は変わらなかった。  一般的なオメガのように穏やかなお人よしには、なれなかった。 「でも、性格は以前と変わりはありません」  カイルの性格はアルファそのものだ。  有能であり、自尊心が高い。そして、他人に自分の番が触れられるのを許せない。 「性格は生まれ育った環境によるものだ」  アーサーは否定も肯定もしなかった。  その代わりに持論を口にする。 「アルファであれと育てられたのならば、そのように育つだろう」  アーサーは違った。  幼い頃に両親を殺された以降、目立つことのないように抑圧されて生きてきた。欲を出さないようにと言い包められて育ってきた。 「この歳になって性格が変わるわけがない」  アーサーは性格が作られるのは幼少期であると思っていた。  だからこそ、断言できた。 「番契約が成立した時点でカイルはオメガだ」  アーサーはバース性に関する知識が乏しい。  それでも、番が成立するのはアルファとオメガだけだと知っていた。 「……アーサーは強いのですね」 「そうでもない」 「そうでなければ、言い切れませんよ」  カイルは不安だった。  その不安をかき消してしまうような言葉だった。 「俺が心配をしすぎだったようです」  カイルはアーサーに笑いかけた。 「俺がアーサーの子を産みます。ですので、愛人は許しません」 「最初からそのつもりだ」 「そうですか。それはなによりです」  カイルは安心した。  ……愛人を作られるのは嫌だったのか。  大公家の為と自分自身に言い聞かせていた。  しかし、本音では嫌だった。  ……変な話だ。  貴族が愛人を作るのは一般的な話だ。仲の良い両親ですらも、外に愛人を作っている。だからこそ、そういうものだと思っていた。  ……独占欲でも抱いたか。  オメガ特有の気質だろうか。  それとも、自身の性格によるものか。  カイルには区別がつかなかった。 「それでは続きを――」 「いたしません。朝から起きて来なくて使用人たちが困惑してます。なにより、アーサー、午後から仕事の予定が入っているでしょう」  アーサーの提案をカイルは容赦なく断る。  それに対し、アーサーか肩を落とした。 「セックスが気に入ったのですか?」  カイルは言葉を選ばず、直球に尋ねた。 「そうだ」  それに対し、アーサーは頬を真っ赤にさせながら、頷いた。 「それはよかったです」  カイルは確認しただけだった。  他に意味はない。 「他の人ともしてみたいですか?」 「そんなつもりはない」 「そうですか。では、毎晩の日課にいたしましょうか」  カイルは淡々と話を進める。  ……毎晩もしていれば、そのうち、発情期に当たるだろう。  そうすれば、子を孕む確率が上がるかもしれない。  カイルは子を諦めたくなかった。

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