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01-1.お茶会に出席をする
カイルは日にちが三日後に迫っていたお茶会への招待状の返信を書き、大急ぎで送った。
そして、三日後の朝。あいかわらず、のんびりとしたアーサーと忙しなく確認をしているカイルの差が大きく、使用人たちを戸惑わせた。
「アーサー。ドレスコードは青だそうです」
「カイルの目の色か」
「これだけではドレスコードにはなりません。なにか青色のものを身に付けないといけません」
カイルはポケットから青色のハンカチを取り出した。
大公夫人としていく為、スーツ姿ではあるものの、ネックレスや指輪などの装飾品も多く身に付けている。
「お揃いのネクタイはどうだ?」
アーサーの提案にカイルは目を輝かせた。
「最高ですね」
カイルはその提案を受け入れる。
すぐにメイドにネクタイを準備するように指示を出し、カイルは落ち着かないようで何度も姿見で確認をしていた。
「慣れていないのか?」
「社交界ですか? 多く出席をしている方だと思いますよ」
「それならば、なぜ、緊張している?」
アーサーは不思議だった。
緊張し、準備を入念にしている姿はかわいらしいものだ。
「好きな人のエスコートは初めてですから」
カイルは照れくさそうに答えた。
「今までは妹をエスコートしていたのです。妹の婚約者がエスコートをしない無責任な人だったもので。代わりに俺が社交界に出席していました」
カイルは今までの経緯を軽く語る。
妹のセシリアは社交界が好きだった。豪華絢爛な場所を好み、派手なドレスに身を包み、婚約者が振り返ってくれると信じて疑わなかった。
その性格は歪んでいた。
「セシリアは――、妹は、純粋な子でした」
少なくとも、カイルから見たセシリアは純粋だった。
貴族として珍しく浮気に動揺し、浮気相手を攻撃してしまうほどに、純粋な恋をしていた。打算的に結ばれた婚約だと知っていたのにもかかわらず、本気で恋をしていた。
そんなセシリアのことを応援してしまった。
関わらなければよかったと後悔した時には、なにもかも、手遅れだった。
「純粋であれば、獲物にされる」
アーサーはカイルを見ながら言った。
「あの人たちのいつもの手だ」
「王族の血でしょうか」
「そうかもしれない」
アーサーは肯定した。
前大公夫妻の人柄は良く、人気があった。それこそ、一部では前大公夫妻が国王になるべきだという声まであがるほどだ。だからこそ、非業の死を遂げた。
「カイルは大丈夫だろう」
「純粋ではない自信はありますが」
「そうではない。同情されているからだ」
アーサーの言葉にカイルは首を傾げた。
性転換の妙薬を授けたのは国王陛下だ。それなのに、同情をするというのはどういう意味だろうか。
「同情されるようなことはしていません」
カイルは困惑しながら、返事をした。
多数の青色のネクタイを腕で抱えて運んでくるメイドたちの姿を見ながら、カイルは本気で同情される理由がわからなかった。
「私に好かれたからだ」
アーサーはメイドたちからネクタイを手に取る。
それをカイルに合わせる。
……そんな理由があるものか。
アーサーが国王夫妻にも近衛騎士団にも嫌われているのは知っている。大公領の人々も助けの手を出さないアーサーを恨んでいることだろう。
「それだけの理由で同情されている」
アーサーの言葉にカイルは信じられないと言わんばかりの顔をした。
「アーサーに好かれているのは名誉のことですよ」
カイルはすぐに否定する。
「そもそも、近衛騎士団の騎士団長として王族の身の回りを警備しているのに、アーサーに対する扱いが酷いのではないでしょうか」
「そうでもない」
「ですが、大公領のこともあります。アーサーを近衛騎士団の騎士団長に指名したのは、悪意のあるものではありませんか?」
カイルは近衛騎士団の出身だ。
近衛騎士団が騎士団の花形であることは知っている。
王族を警備し、いざという時には王族と直接、接することもある役職だ。誰もが憧れる名誉の仕事である。
しかし、アーサーは違った。
近衛騎士団の騎士団長とは名前だけの存在だった。多くは訓練室にこもっており、近衛騎士としての仕事をしているところをみたことがなかった。
「私は特に王妃に嫌われている」
アーサーは嫌われている自覚があった。
前大公に似た容姿をしたアーサーのことを王妃陛下は憎く思っていた。
「近衛騎士団の騎士団長に指名したのは王妃だろう」
アーサーを冷遇しているわけではないと周囲にアピールをする目的があった。
そのことにアーサーは気づいていた。
だからこそ、陰で名前だけの騎士団長だと笑われていても耐えられた。耐えなければいけなかった。少なくともカイルに好意を寄せているとばれるまでの時間稼ぎがほしかった。
「カイルが近衛騎士団に入団したのは嬉しかった」
「そうですか?」
「あぁ。傍にいられるだけで満足していたんだ」
アーサーの言葉にカイルは罪悪感を抱く。
……嫌われていると思っていたのに。
それこそ、初恋の記憶を心の奥底に沈めてしまうほどには嫌われていると思っていた。
「スコット公爵家の茶会に王族は参加しないか?」
「身内だけの小さな茶会と聞いています」
「身内か?」
アーサーは疑問を抱いた。
スコット公爵家とホワイト大公家の縁は薄い。
……アーサーは出席をしないと思われていたんだろうな。
カイルはその答えを知っていた。
しかし、それを口にしたくはなかった。
「ブラッド子爵家とは親戚だったな」
「遠い親戚になりますね」
「身内と言えば、身内か」
アーサーは自力で答えを導き出していた。
「私はお呼びではないようだ」
「それでも、参加してくださるのでしょう?」
「当然だ」
アーサーは言い切る。
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