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01-2.お茶会に出席をする
青色のネクタイを身に付け、準備はできた。
* * *
茶会会場であるスコット公爵邸につくと、ざわめきだした。
誰もがアーサーが来るとは思っていなかったのだ。
「アーサー。しっかりとしてください」
「しかし、これほどに歓迎されてないとなると……」
「歓迎されるわけがないでしょう」
カイルは堂々と歩く。
その横を犬のようにくっついて歩くアーサーの姿を誰もが見ていた。
「スコット公爵、公爵夫人。お招きありがとうございます」
カイルは目的の人物を見つけて、挨拶をする。
主催者に挨拶をするのは社交界の基本だ。それを知らないアーサーは挙動不審のまま、頭だけを軽く下げた。
「カイル! 外に出してもらえてなによりですわ。監禁されているなんて聞かされた時には、心配しましたのよ」
公爵夫人は涙を流しながら、声をかけた。
本気で心配をしていたのだろう。
「心配をおかけしました。ですが、嫁いでから数日しか経っていませんよ」
「数日でも頭のおかしい男に監禁をされていたのは事実でしょう?」
スコット公爵夫人はアーサーの目の前で言ってみせた。
その言葉に同調するような雰囲気を感じる。
……この人は冗談なんて言わない。
幼い頃からスコット公爵家と交流があった。だからこそ、スコット公爵夫人が悪質な冗談を口にしないことはわかっている。
本気で噂を信じているのだ。
……王族が絡んでいるな。
絶対的な存在が裏に潜んでいる。
そうでなければ、噂を信じるはずがない。
「アーサーはまともです」
カイルは怒りもしないアーサーの代わりに反論した。
アーサーは慣れてしまっているのだろう。
「旦那様を庇うなんて……! 誇り高いアルファならしなかったわ!」
スコット公爵夫人の同情は心が痛む。
……結婚をする前では庇わなかっただろう。
むしろ、嫌われているのだと思っていた。
疎まれているからこそ、行動を監視されているのだと思っていた。
「俺はオメガですから」
「アルファだったでしょう? それを無理に変えるなんて体の負担が心配だわ」
「ご心配ありがとうございます。ですが、覚悟の上で飲みましたので問題はありません」
カイルは笑顔で言い切った。
……妙だな。
性転換の妙薬を飲んだことが知れ渡っている。
……噂を広めたのは王妃陛下なのか?
なにが目的なのか、わからない。
カイルを同情させても王族は得をしないはずだ。
「どうして、こんなにいい子が……」
スコット公爵は小さな声で呟いた。
そして、視線をカイルではなく、アーサーに向けた。
「大公。カイルは我が子も同然だ」
スコット公爵は言い切った。
その言葉にカイルは目を見開いて驚いた。
……そう思っていたのか。
我が子も同然と考えていたのならば、身内だけの茶会に招待をするだろう。
……意外だな。
その場で繕ったお世辞とは思えなかった。
「解放してもらえないだろうか?」
「解放とは?」
「その名の通りだ。監禁を止め、この子に自由を返してあげてほしい」
スコット公爵は淡々と告げた、
それに対し、アーサーは首を横に振った。
「番を手放すわけにはいかない」
アーサーの答えに対し、周囲は騒がしくなった。
……想定外だったのか?
番契約をまだ結んでいないと思われていたようだ。
「番ですって?」
「番契約を結ばせたのか。かわいそうに」
「無理やりなんて。なんて非道なの」
カイルは周囲の声に耳を傾ける。
……好き勝手に言っているな。
自分の意思で番契約を結んだのだと微塵も思っていない声ばかりだ。
それに対し、アーサーは聞こえないふりを貫いていた。
……アーサーが言い返さないのなら、俺が言うわけにはいかない。
カイルは夫に忠実な妻を演じなければならない。
それがアーサーが茶会に出席をする条件だった。
「カイルはあなたの所有物ではない!」
スコット公爵は声を荒げた。
番契約を結んだという事実が信じられなかったのだろう。
周囲の人々と同様に無理やり結ばせたものだと考えたのだろう。
「私の妻だ」
アーサーは怒鳴られてもびくともしなかった。
当然のように所有を主張する。まるで、自ら悪者になろうとしているかのようだった。
「私たちは愛し合っている。それがなにか問題でも?」
アーサーの言葉に対し、スコット公爵は顔を真っ赤にして怒りを露にんした。
「嘘を吐くのはやめるんだ!」
スコット公爵はアーサーの頬を殴った。
それに驚いたカイルは慌ててアーサーの方を見る。
……まさか、殴るなんて。
想定外だった。
「アーサー。大丈夫ですか?」
「問題はない」
アーサーは殴られたところで問題はないのだと言い切った。
しかし、頬は赤くなっている。
「公爵。アーサーは嘘を吐いていません」
カイルは黙っていられなかった。
アーサーを庇うように言葉を口にする。
「俺たちは愛し合っています。ですから、アーサーを殴ったことへの謝罪を――」
「カイル。それ以上は言わなくていい」
「――ですが、アーサーが傷つけられたことには変わりはありません」
カイルは謝罪を要求しようとするが、アーサーに止められてしまった。
それに対し、カイルは不服そうな顔をする。。
「私の言葉が信じられないのは当然だ」
アーサーはカイルを宥めるように言った。
「噂は厄介だな」
「その噂を撤回する為に来たのでしょう」
「そうだが。これほどまでに広がっているとは思わなかった」
アーサーの言葉に対し、カイルは疑惑の目を向ける。
アーサーが白々しい言葉を口にしたからだ。
……嘘つき。
知っていたはずである。
わざとらしい演技をしている最中も表情一つ変わらない。
……国王陛下夫妻がそこまで恐ろしいのか?
カイルも数回ほど目にしたことがある。
公爵家の令息として挨拶をさせてもらったこともあった。
その時には穏やかな人々に見えたのだが、身内に見せる顔は違うのだろうか。
「これにて帰らせてもらおう」
「アーサー。まだ来たばかりです」
「このような場所にカイルをいさせるわけにはいかない」
アーサーはカイルの腕を掴み、強引にその場を立ち去っていく。
……これでは計画が台無しだ!
カイルは監禁などされていない。
互いに愛し合っている。
その印象を植え付けるための出席だった。
……このままだと本当のことにされてしまう!
どう見ても独占欲の強い男だった。
監禁していてもおかしくはないと陰口が叩かれている。それを否定しなければならなかった。
「アーサー!」
カイルは抗議の声をあげる。
その言葉にアーサーは答えなかった。
「俺はまだ帰るつもりはありませんよ!」
カイルは必死に訴える。
それに対し、アーサーは人混みを避けるように歩いていくだけだ。
……噂が事実として広まってしまう!
監禁されているのだと事実のように広まってしまうだろう。誰が見ても、そう見えた。
「大公閣下! カイルが嫌がっているのがわかりませんか!?」
馬車に向かって歩いていくアーサーを引き留めた青年、ジョージ・スコットは声を荒げた。幼馴染の姿を見つけて駆けつけてきたのだろう。
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