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03-1.監禁の噂

 後日、ジョージから手紙が届いた。  ……嫌がらせか?  ジョージからの手紙を思わず握りつぶした。  近衛騎士団の騎士団長としてふさわしくないと国王夫妻に直談判する貴族が増加していると手紙には書かれていた。嫌がる青年を買い取り、嫁にして監禁しているのも大公の素質に問題があると噂になっているようだ。  噂はさらにひどくなっている。  ジョージはお茶会での非礼を詫びていた。  だからこそ、外に出られないカイルの為に情報を横流ししてくれたのだろう。 「返信はいたしますか?」 「もちろんです。友人からの手紙ですので」  同席していた執事長に問われ、カイルは平静を装って返事をした、  ……屋敷の者に迷惑はかけられないな。  噂を撤回しなければいけなかった。しかし、思い通りには進まず、逆に噂が本当であるかのような印象を与えてしまったようだ。  ……解決策を考えなくては。  考えなくてはいけない。  少なくとも、大公家で働いている使用人たちには迷惑をかけたくはなかった。 「噂の件、大公閣下はご存知でしょうか?」  執事長に問われ、カイルは驚いて目を見開いた。 「噂を知っているのですか?」 「使用人の中には貴族出身の者もおりますので、存じております」 「そうですか。アーサーは知っています。だが、できる限り、噂がアーサーの耳に入らないように努めてください」  カイルは指示を出す。  ……屋敷の中でも広がっていると厄介だな。  アーサーは屋敷を空けている時間が長い。それ故にカイルが監禁されているように見えてしまう可能性もある。 「信用して話をします」 「はい」 「友人からの情報提供がありました。アーサーが騎士団長の座から引きずり降ろされるかもしれません」  カイルの言葉に執事長は言葉を失った。  ……簡単に引きずり降ろされるとは思えない。  近衛騎士団の騎士団長にアーサーを任命したのは王族の誰かだ。  誰なのかまではわからないものの、任命責任を取るとは思えない。  ……騎士団長を下ろされたら、大公として力を発揮すればいい。  アーサーが騎士団長を下ろされるようなことが起きれば、大公領に力を注げる。  大公としての評判も少しはましになるかもしれない。  ……そうさせない為に、王族が動くはずだ。  王族はアーサーを敵視している。  アーサーを大公領に行かせるよりも、手元に置いておきたい気持ちが強いはずだ。 「……不仲という噂が屋敷の中で広まりつつあります」  執事長は恐る恐る口を開いた。 「不仲?」  カイルは首を傾げる。  出かける時には毎回のように抱擁と口付けを交わしているのは、使用人たちも目にしているはずだ。それなのに不仲という噂が流れるのは理解ができなかった。 「不仲に見えますか?」 「いいえ。仲睦まじい夫婦に見えます」  執事長は素直に答えた。  それはそうだろう。毎晩のように行為をしていることは屋敷の者は知っている。特に部屋の掃除を任されている者は嫌でもその行為の後を見なくてはならない。 「平民でも知っているほどです」 「なぜ、そのようなことになったのですか」 「おそらく、ダリアが広めたものだと思われます」  執事長の言葉にカイルは頭痛がした。  ……これだから、女は厄介なんだ。  解雇されたことを根に持っていたのだろう。 「新聞社に駆けこまなかっただけよかったと考えるべきですね」  カイルは噂好きの新聞社をいくつも知っている。  セシリアの時には散々書かれたのだ。 「屋敷内の不仲の噂はすぐにでも撤回できるでしょう」 「はい。信じている者は少ないかと思います」 「……少なくても、いることが想定外ですが」  カイルは呆れてしまった。  ……噂は厄介だ。  ダリアのような行動をする者が出てくるかもしれない。  ジョージのようにカイルを解放するように訴える者もがでるかもしれない。  どのような方法でカイルに接してくるのかさえも、わからなかった。  しかし、どちらにしても、噂を信じている者は信用できなかった。 「アーサーが帰宅をすれば、噂など吹き飛ばしてくれますよ」  カイルはアーサーに溺愛されている。  そのことを自覚していた。 「それから、噂を信じている者の調査と広げている者の調査をお願いします」 「かしこまりました」  執事長の返事を聞き、カイルは椅子に座る。  それから手紙の返事をする為にペンを握った。 * * *  アーサーが帰宅をした。  すぐに出迎えをしたカイルを抱きしめる。 「会いたかった」  アーサーはそういうとカイルに軽い口付けをした。  数秒触れるだけのものだった。 「俺もです。アーサー」  カイルは見せつけるように抱きしめる。  周囲の視線を木にしながらの行為だった。  ……疑っている者がいるな。  視線を感じる。  その視線は疑いによるものだった。 「妙な噂が広がっています。このまま、部屋に行きましょう」  カイルはアーサーの耳元で囁いた。  すると、アーサーはなにを思ったのか、抱きしめるのを止めて、カイルを抱き上げた。 「アーサー!?」 「この方が早い」 「自分で歩けます!」  カイルはアーサーの行動に目を見開いて抗議をした。  アーサーはカイルの言葉を聞かない。  すたすたと歩き始めてしまった。 「恥ずかしいのですが」  カイルは頬を赤くしながら、抗議をする。  顔を隠さないのは見せつける為だった。  ……噂対策としては抜群でしょうが。  これを見て不仲だと言えるのならば、言ってみればいい。誰も信用しないのは目に見えている。それでも、なぜか、噂は広まってしまっている。  ……噂の原因は、俺が元々がアルファだからか?  オメガらしくないからこそ、無理に従わされていると思えるのだろうか。

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