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01.監禁の日々が始まる
あれから一週間が経過した。
カイルはアーサーがいない間、執務室に籠る日々を続けていた。
……噂がさらにひどくなった。
ジョージからの手紙には書類仕事をさせる為だけに番契約を差せたと噂が広まっていると書かれ、これには心配の声も書かれていた。
事実としてアーサーが不在の時は執務室で作業をしている。
それが漏れたのだろう。
一週間前の三人のメイドは解雇されている為、他にも王族と繋がっているメイドや執事がいるのは明白だった。
「……手に負えないな」
カイルは早くも限界が来ていた。
元々、家を継がない立場であったとはいえ、騎士として多くの慈善活動や護衛任務に力を注いでいた。家の中に籠っていられるタイプではないのだ。
……社交界も禁止にされたのが痛い。
噂を訂正するどころか、事実となってしまった。
カイルは監禁状態にあった。
「カイル様。こちらはどういたしましょうか」
執事長に問われ、カイルは顔をあげる。
王室の紋章が描かれた手紙だ。
「要求次第だな」
カイルは手紙を受け取り、開封する。
……個人的なお茶会の誘い?
罠だろう。
宛名を見ると王妃陛下の名が書かれていた。
……しかも、俺だけか。
アーサーを連れて来ないことが条件に示されていた。
断るしかなかった。
「断るしかないだろう」
カイルは返信用の手紙を書き始めた。
……監禁されている為、外に出られない、と書いておけばいいだろう。
アーサーに相談をしたところで参加を許されないだろう。王室主催となれば、特に警戒をしなければならない。
……申し訳ございません。と。これでいいだろう。
長い文章で謝罪の言葉を綴った。
外に出ることが叶わないのだと訴える文章にも見えるがしかたがないだろう。
外に出ることができないのが現実だ。
「これを送っておいてくれ」
「かしこまりました」
執事長は手紙を受け取る。
それから郵送の手配をする為に執務室から出て行った。
「んー」
カイルは伸びをする。
執事長が常に傍にいるのは監視の為だ。アーサーがカイルが外に出ないように監視をするように言い付けていたのを、先日、見てしまった。
……自由がない。
書類の山もずいぶんと減ってきた。
大公領から届く緊急の知らせも減り、どうにか、生活が安定し始めたようだ。
……結婚しなければよかったかもな。
アーサーのことは愛している。
しかし、自由のない日々に窮屈さを感じていた。
……アルファに戻りたい。
騎士として活躍をしていた日々が恋しい。
口が裂けても言うことができない願いを心の奥に閉じ込める。番契約をした以上、カイルがアルファに戻ることはできない。そもそも、性転換の妙薬に解毒剤は存在しない。
「退屈ですか? カイル様」
「……いや。座り仕事に疲れただけだ」
「そうですか。では、そろそろ、休憩をされてはいかがでしょうか」
郵送の手配をしている執事長と入れ替わりで入ってきたのはメイド長だった。
メイド長もカイルの監視を言い付けられている。
大公邸で働く者の最重要任務はカイルの監視だ。カイルが庭にもでないように監視し、誘導するのが彼らの最重要任務である。
「そうしようかな」
カイルは立ち上がった。
書類仕事は毎日のように追加される。大公領は広い。その管理ともなれば、当然の仕事量だった。
「メリーさんも監視役か?」
「はい。大公閣下より監視をするように言い付けられています」
メイド長、メリーはそう答えた。
……隠しもしないのか。
わかっているだろうという態度のまま、机の上に紅茶と菓子を並べていく。
メリーはダリアの母親だ。カイルに思うこともあるだろう。
……味が薄い。
カイルは紅茶を飲んだ。
「次からは濃く出してくれ」
「苦みが出る方が好みでしたか?」
「いや、味が薄いんだ。お湯を飲んでいる気分だ」
カイルの言葉にメリーは目を見開いた。
「では、クッキーを召し上がって見て下さい」
メリーは恐る恐る声をかけた。
紅茶は嫌がらせをしているわけではない。通常通りに出してある。
菓子も専門の菓子職人の手で作られた逸品だ。
「味がしない」
カイルの言葉にメリーはその場で座り込んでしまった。
「どうした?」
カイルは異常に気づいていない。
それがあまりにも不憫でしかたがなかった。
「お医者様をすぐにお呼びしましょう。カイル様。味覚に異常が出ているかもしれません」
メリーは懇願するようにカイルに言った。
……味覚異常?
それを確かめるようにクッキーを食べた。やはり砂を食べているような感覚で味がしない。
「……わかった」
カイルはメリーの言葉を受け入れることしかできなかった。
クッキーを食べて、固められた砂を食べているような感覚だった。それが普通ではないということをカイルも知っている。
……嫌がらせじゃなかったのか。
カイルをよく思わない人物からの嫌がらせだと思っていたのだ。
* * *
「ストレスによる味覚異常ですね」
すぐに呼ばれた医者の答えを聞き、カイルは納得してしまう。
「性転換の妙薬が関係している可能性はあるのか?」
「可能性はあります。バース性が変わるストレスも一因でしょう」
「そうか」
カイルは俯いた。
「しかし、それならば、服薬後にすぐに異常が出たはずです」
医者は可能性の域を出ないと付け加えながらも、カイルに説明をしていく。
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