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03-3.王妃陛下のお茶会

 すべて余興のようなものでしかないのだ。  王妃陛下の暇つぶしとして消耗させられているだけである。 「私の番だ」  アーサーは反論をした。  本能がそうさせているのかもしれない。 「大公。見苦しい真似は止めなさい」  王妃陛下は笑いながら声をかけた。 「この子を無事にアドルフの番にすることができたのならば、アドルフには公爵の座を授けましょう。席が空いていますもの」  王妃陛下は煽る。  それをアドルフが心から願っていることだと知っているからこそ、条件として提示したのだろう。アーサーを退かせようとするアドルフの力は強かった。 「アドルフ殿下は俺の運命の番ではありません」 「なにをおっしゃるの。わたくしが運命の番だと言えば、それは事実になるのよ」 「いいえ。なりません。王妃陛下」  カイルはまっすぐ王妃陛下を見つめた。  その視線に王妃陛下は頬を赤く染めた。王妃陛下の好みの見た目であるのは事実だったようだ。  ……しまった。  カイルは後悔をした。  王妃陛下の悪い癖を思い出したのだ。 「……ほしいわ」  王妃陛下はカイルの両肩から手を離した。 「わたくし、あなたが気に入ったわ。大公夫人。わたくしのものになってちょうだい」 「それもできません、王妃陛下」 「どうして? わたくしの為に宮殿に来て、わたくしの話し相手をしてちょうだい」  王妃陛下の狙いは変わった。  まっすぐに意見を言われたことがなかったのだろう。  カイルに興味を抱いたようだ。 「俺は大公邸から出られません」 「今日のように呼び出すわ。毎日ね。わたくしの為だけに外に出させてあげるわ」 「魅力的なお誘いをありがとうございます。ですが、夫が嫌がりますので」  カイルはすぐに断った。  それすらも、王妃陛下の興味を引くものだったのだろう。王妃陛下は良いことを聞いたと言わんばかりの顔をしていた。 「アドルフ。大公。醜い争いはおやめになって」  未だに力比べをしている二人に対し、声をかける。 「アドルフの運命の番ではないわ」  王妃陛下が意見を変えた。  それはアーサーにとって衝撃的なことだった。 「わたくしの運命の友よ。わたくしだけの友になるのよ」  王妃陛下は運命にこだわっていた。  流行りものはすべて最先端でなくてはならない。民が貧困で苦しんでいても変わりのない豪華絢爛な生活を好み、それを見せつける日々に快楽を得ていた。  その中でも手に入れていないのが運命の番だった。  政略結婚であり、王妃陛下はベータだ。運命の番を手に入れられるはずがなかった。  その代わりのものを見つけたのだ。 「アドルフにはあげないわ」  王妃陛下は好きなものを独り占めする傾向があった。  だからこそ、メイドに産ませたアドルフのことを酷く嫌っていた。国王陛下の愛人をすべて嫌い、その愛情を独り占めできないことに憤っていた。  ……厄介だな。  王妃陛下のお気に入りになってしまったのだと自覚をする。  アドルフは王妃陛下の機嫌を損ねないように一歩下がった。それを見て、アーサーも警戒をし続けているものの、必要以上に圧をかけない。 「大公」  王妃陛下はアーサーに声をかけた。 「大公夫人を毎日のようにわたくしのお茶会に連れてきてちょうだい。帰りはわたくしが満足をしたら返すわ」  王妃陛下はカイルを所有物のように扱う。  そして、その主張が当然のように通るものだと信じて疑わない。 「お茶会だけでしたら、参加させます」 「お茶会だけじゃないわ。社交界でもわたくしの隣にいさせるわ」 「それでしたら、妻を王妃陛下の元に届けることはできません」  アーサーは拒否をした。  その言葉を聞き、王妃陛下の機嫌は急降下した。 「わたくしの友ですのよ。常に一緒に居るのが当然だわ」  王妃陛下は譲らない。 「大公夫人としての仕事ですわよ」  王妃陛下は機嫌が悪そうに言った。  未婚の貴族の子女が王妃付きのメイドを行うことはよくある話だ。  警護に当たる近衛騎士団の騎士たちがアルファであることが条件に出されているのも、王妃陛下のこだわりによるものらしい。  王妃陛下はアクアライン王国の二番目の権力者だ。  そこに逆らうのは得策ではない。 「わかりました」 「カイル!」 「アーサー。王妃陛下が望まれていることです。大公夫人としての仕事をするだけのことでしょう」  カイルは承諾した。  そうすることで場の雰囲気を変えることに成功した。  王妃陛下の機嫌が直ったのだ。 「さすがはわたくしの友ですわ」  王妃陛下は嬉しそうにカイルに近づき、その手を取って、立ち上がらせた。  そして、その場でダンスをする。  カイルも王妃陛下に合わせるようにダンスを披露した。友人というよりも愛人に近い立場に立たされることは、カイルも理解をしていた。  ……これでいいんだ。  すべてが丸く収まる方法はこれ以外になかった。 「綺麗に着飾りましょう。カイル。わたくしの友ですもの。地味な格好は似合わないわ」 「はい。王妃陛下のお好きなようにしてください」 「お前は素直でいい子ね。セシリアと同じだわ」  王妃陛下はご機嫌だった。  ……セシリアも王妃陛下のお気に入りだったな。  毎回のように人形遊びや着せ替え遊びに付き合わせて、嫌になると叫んでいていたセシリアの姿を思いだす。これからカイルに待ち受けているのは、王妃陛下が気に入るまで続く着せ替え遊びだ。  人形のような友を王妃陛下は求めている。  カイルはその期待に応えなければならない。 「セシリアも王室に嫁げばよかったのに。残念だわ」 「セシリアの醜聞によるものです。王室には迷惑をかけられません」 「そうね、聖女虐めは良くないわ。あの子が気に入らない気持ちはわかるけれども」  王妃陛下は肯定した。  ……聖女か。  学院時代、数回目にしたことがあった、  学年が違った為、関りを持ったことはない。しかし、聖女はカイルに興味を持っていた。  ……第二王子の現婚約者。  セシリアの元婚約者を奪い、聖女としての地位を確立させた少女の名を知らない。 「嫁は忠実ではなければいけないわ」  王妃陛下はダンスをしながら、語る。 「その点ではセシリアは合格だったわ。わたくしに忠実でしたもの」  王妃陛下はセシリアを認めていた。  婚約を白紙に戻すのに最後まで反対をしていたという噂は事実のようだ。 「私の息子に嫁ぐ気はないかしら? 第三王子のお嫁さんを探しているのよ」 「申し訳ございません。大公と結婚をしておりますので」 「離婚をすればいいわ。大公も頷いてくれるはずよ」  王妃陛下のダンスの足取りが止まった。  それに合わせ、カイルは王妃陛下の手を離す。 「ねえ、大公。良い案だと思わないかしら」  王妃陛下の視線はアーサーに向けられた。  いまだにアドルフの動向を気にしていたアーサーは声をかけられたことで目を丸くしている。 「離婚をしてちょうだい。わたくしの息子の嫁にするわ」 「お断りさせていただきます」  アーサーは即答で断った。  ……よかった。  見捨てられていたわけではないと安心をする。

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