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04.運命の番ではなかった
* * *
……運命の番ではなかった。
カイルは安心感からベッドに横になる。
その隣にはアーサーも寝転んでいた。
「アーサー」
カイルがアーサーを呼べば、少々困ったような顔をしたアーサーが向きを変える。カイルと向かい合うように転がった。
「運命の番なんて嘘でしたね」
「そうだな」
「王妃陛下のお気に入りになったのは不本意でしたが、アーサー以外に噛まれることにならなくて安心しました」
カイルは素直に告げた。
「私の番だって、言ってくれて安心したんですよ」
カイルは笑う。
その安心しきった笑みを見て、アーサーは胸が痛んだ。
「……すまなかった」
アーサーは謝罪をする。
「私の独占欲のせいでカイルの出世を潰してしまった」
「何の話ですか、それは」
「第三王子に嫁げば、王室の一員になれただろう」
アーサーは後悔していた。
その言葉にカイルは上半身を起こした。のんきに転がっている場合ではなかった。
「……アーサーは俺を愛していないのですね」
カイルはベッドから降りる。
それから普段から身に付けるようになったチョーカーを外して、床に叩きつけた。オメガになった日にアーサーからプレゼントされたものだった。
「そんなことはない」
「それなら、どうして、他の人に受け渡そうとするのですか!」
「それを拒絶してしまっただろう」
アーサーは慌てて立ち上がり、カイルを抱きしめる。
……酷い人だ。
手放した方が幸せになれると決めつけられている。
カイルはアーサーの隣に並んでいたいのに、いつも、距離をとられてしまう。
……逃がしてもくれないくせに。
逃げ道は残されていないとカイルも知っていた。
「俺はアーサーといるから幸せになれるんです」
カイルは涙を流した。
番に拒絶をされたように心が痛かった。
「他の人ではダメなんです」
カイルの言葉はアーサーに届いた。
アーサーは優しくカイルを抱きしめながら、頷いた。
「俺がアーサーを好きなんです。だから、番にだってなったんです。それだけの理由ではアーサーは信じてくれないですか?」
カイルの言葉は真剣だった。
素直に正直な言葉を口にした。
「……すまなかった」
アーサーはカイルを強く抱きしめた。
「私はカイルを疑っていたわけではない」
「本当ですか?」
「本当だ。私はカイルから嫌われるのを恐れ、手放そうとしていた」
アーサーの本音をようやく聞けた。
……本物だったら違ったのだろうか。
運命の番は偽物だった。
アドルフは王妃殿下に利用されただけだ。
「カイルが奪われそうになって、初めて、自覚した」
アーサーの声は震えていた。
自身の感情の変化に驚いているのだろう。
「カイルだけは奪われたくないと思ってしまった」
アーサーは両親を奪われている。
それもしかたがないことだと諦めるしか道はなかった。大公領が荒れ果てても、アーサーになにかをする時間を与えられることはなく、見て見ぬふりをするしかなかった。それを変えたのはカイルだ。
「愛している、カイル」
アーサーは愛の言葉を口にした。
たった一人だけの番を手放したくはなかった。
「俺も愛しています」
カイルは安心したように笑った。
二人を待つ受けている噂は消えない。しかし、王妃殿下のお気に入りでいられる間はいくぶんかまともになるだろう。
つかぬ間の平和を満喫するように二人はキスをした。
完結
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