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番外編 巣作り ※
体が熱くてしかたがない。
熱が上がっているのだろう。それなのにもかかわらず、寒気はしない。
カイルはクローゼットを開ける。そこにはアーサーの私服が入っている。それを遠慮なくすべて持って、ベッドに向かう。アーサーが愛用している枕に顔を埋める為に準備をした。自身の周りには服を丁寧に並べていく。
巣作りが始まったのだ。
意識はもうろうとしていた。
枕に顔を埋め、息を吸う。アーサーのフェロモンの残り香を堪能するかのように、しばらく、そのままの姿勢でいたのだが、急に顔をあげた。
足りないのだ。
きれいに並べて作った自慢の巣だけでは足りない。
「アーサー」
涙を流す。
恋しくて恋しくてしかたがなかった。
「アーサー」
何度もアーサーの名前を呼ぶ。
彼が来ないことは知っていた。仕事中だ。来れるはzがない。
「んっ」
カイルは自身の陰茎に手を伸ばす。
アーサーの前で見せるのは嫌だが、本人のいないところなら構わなかった。そもそも、理性が飛んでいる状態でなにも考えられなった。
快楽を貪るように陰茎を上下させる。
それだけでは足りず、空いている左手で自身の胸を弄る。アーサーがいつもするように爪で引っかくようにして刺激をする。胸の刺激がなければ射精できなくなっていた。
「んんっ」
射精をした。
しかし、すぐに勃起してしまう。上下に動かす手を止められない。
その様子を早帰りしてきたアーサーに見られているなど、思ってもいなかった。
「んっ、あっ、アーサー……」
二度目の射精をする。
思わず、恋しい人の名を口にしてしまった。
「なんだ」
返事が来るとは思ってもいなかった。
カイルは目を見開いた。それから、慌てて手を止める。下着の中から右手を抜き、隠すように両手を後ろにした。
「巣作りが綺麗だな」
「そ、そうですか」
「初めて見るが、嬉しいものだな」
アーサーの言葉にカイルは頬を赤く染める。
「まだ帰宅する時間ではないのでは?」
カイルの問いかけに対し、アーサーは困ったような顔をした。
「王妃陛下に帰るように言われたんだ」
「王妃陛下が?」
「今日は体調が悪くて行けないと伝えたところ、すぐに帰れと言われてしまった」
アーサーの言葉に納得をする。
カイルは王妃陛下の一番のお気に入りになっていた。時々、ドレスを着せられるものの、中性的な顔立ちのカイルでは違和感もなく、楽しくお茶会をさせられていた。カイルとしては不本意ではあるものの、王妃陛下の機嫌を損ねないのが一番だった。
その為、王妃陛下はカイルを大切に扱った。
人形を奪われないように必死だった。
そのカイルが体調を崩しているとなれば、すぐにアーサーを帰宅させたのだ。恐らく、発情期によるものだと察したのだろう。
「まだ物足りないのではないか?」
アーサーに問われ、カイルはぎくりとする。
……アーサーの匂いに気づかなかった。
いつもならば、フェロモンに反応をしていたはずだ。巣作りと自慰に夢中となり、気づけなかった。
「アーサー」
カイルは両手を伸ばす。
「巣作りが上手にできたんです。ご褒美ください」
カイルのおねだりにアーサーは応えた。
アーサーはベッドに上がり、カイルを抱きしめる。
「アーサーの匂いがする」
「……加齢臭ではないよな?」
「違います。優しい匂いです」
カイルは嬉しそうに笑った。
そして、キスをする。互いの存在を確かめあうかのように、舌を絡ませ、唾液が零れ落ちる。互いを貪り合うような激しいキスだった。
唇が離れる。
……足りない。
まだアーサーが足りないというかのようにカイルからキスをした。
触れるだけの優しいキスだった。それを何度も繰り返す。
幼さが見え隠れするキスにアーサーは興奮した。
「アーサー」
カイルは愛おしそうに番を呼ぶ。
「限界です。アーサーをください」
「慣らさないと」
「大丈夫です。もう濡れてますから」
カイルはすぐにでもアーサーがほしかった。
いそいそとズボンと下着を脱ぐ。抱きしめられている姿勢のままでは脱ぎにくかったが、しかたがない。離れる選択肢はカイルにはなかった。
「積極的だな」
アーサーは興奮が隠せなかった。
アーサーの陰茎は存在を主張するように大きくなり、ズボン越しでもその存在を感じとれる。
「積極的なのは嫌いですか?」
カイルは問いかけた。
不安そうだったが、下半身をしっかりとアーサーに押し付ける。限界だった。
「まさか。好ましいくらいだ」
アーサーは抱きしめるのを止めて、カイルを押し倒した。
それから、カイルの両足を持ち上げる。
「恥ずかしいです」
「そうだな。丸見えだ」
「アーサー、恥ずかしいことは好きではありません」
カイルは否定した。
しかし、アーサーは愛おしそうにカイルの尻の穴を撫ぜた。ひくひくと動き、既に糸を引いている。中が解れているのは事実のようだった。
「これなら、すぐにいれても大丈夫そうだな」
「大丈夫です」
カイルは我慢ができない。
発情期中は理性が飛んでしまう。綺麗に作った巣が乱されていることにも気づかず、アーサーだけを求める。
ゆっくりとアーサーの陰茎が穴の中に入っていく。
「んんっ」
カイルは尻の異物感だけで達してしまった。
射精した精液はカイルの洋服を汚した。それすら気にせず、カイルはアーサーを求めるように抱き着いた。
「もっと、奥にください」
カイルはアーサーに声をかける。
切実な声だった。
「わかっている」
アーサーは奥にまで陰茎を入れ、ゆっくりと腰を振り始めた。
一度、腰を振り始めると止まらない。
「んっ、あんっ」
カイルは甘い声をあげる。
その声はアーサーを誘惑するものだった。中を擦られ、カイルはいつも以上に簡単に達してしまう。その際、中が引き閉められる為、アーサーもつられて射精をした。
「あんっ」
カイルは甘い声をあげた。
アーサーは腰を振り続ける。オメガのフェロモンで満たされた場所では、アーサーの理性も残らなかった。獣のように腰を振り続け、一定数腰を振ると奥に欠けるような勢いで射精をする。それはカイルが気絶をするまで繰り返された。
* * *
カイルは目を覚ました。
発情期は気絶をしている間に抜けたようだ。
そうすると羞恥心が迫ってくる。
「目が覚めたか」
アーサーに問われ、カイルは顔を真っ赤にしながら頷いた。
「上手な巣作りだったな」
「ありがとうございます」
「見事に誘惑をされてしまった」
アーサーの言葉にカイルは俯いた。
耳まで真っ赤に染まっている。
「理性が飛んでいる姿をお見せしてお恥ずかしい限りです」
カイルはアーサーの顔を見れなかった。
そんなカイルを見てアーサーは嬉しそうに笑っていた。
「子ども、できるといいな」
「さすがに一回では難しいでしょう」
カイルは容赦なく現実を叩きつける。
発情期は二回目だ。薬を飲んだ時以来である。
そんなにすぐには妊娠しないことはわかりつつ、期待してしまう。
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