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第4話 君の話が聞きたいんだ
ヴェルシュの冷たい視線が、アヴァールを射抜いた。
「本当にそれだけか?美しいとは、浅い動機だな」
しかし当のアヴァールは何でもないというようにグラスを傾け、そしてヴェルシュに問いかけた。
「君の生まれは北国と聞く。星空と緑が美しい場所なんだろう?その話を聞かせてくれないか」
どうやらこの男は、ヴェルシュとまともな問答をする気などないらしい。ヴェルシュは、はあ、と重たく息を吐くと、人参のポタージュにスプーンを沈め一口掬った。
「…俺の故郷は、ここよりもっと北にある。人とそれ以外とが手を取り合い、それは星が降るような美しい場所だった」
そしてそれを口にすると、ゆっくりと語り始めた。
「絶えず日が昇る季節もあった。明るい夜は、生まれてしばらくこそ神秘的だったが、何百年と経験すれば夜という感覚を失くす日さえあったさ。眠りを忘れ、何百日と起きている者もいた。そうすれば、長命種がどうなるか、分かるだろう?」
「ふむ……気が狂ってしまう、とか?」
「は、想像力が足りないな。何十年も眠ってしまうんだ。俺はそれを見ていられなくてね…そうして、気がついたら俺は、国を出ていた」
そこまで話すと、ヴェルシュは残っていたポタージュを飲み干した。
使用人は、見計ったように次の料理を持ってくる。丁寧に蒸された鶏肉と野菜の、温かいサラダだった。
「なるほど、懐かしいな」
呟くように言って、次はアヴァールが語り始める。
「白夜、というんだろう?──日が沈まない夜のことを。昔父の仕事に着いて北を訪れたことがあってね」
こんな国から北まで出向く仕事などあるのだろうか、という疑問が浮かぶ。しかし一旦は、口を挟んだ彼の話を聞くことにした。
「たった一度だけれどね。草木が──特に楓が、まだ瞼の裏に残っている。君たちエルフに出会ったのも、その時だったんだ。とても美しいと、そう思った。手元に置いておきたい、そんな願望を抱いたのもその時だ」
語りながら、アヴァールは肉を切る。フォークに刺したそれを口に入れるでもなく、弄ぶように動かしながら続けた。
「そこで、先日出会ったのが──ヴェルシュ、君だ。己の身が滅びようとする時、成せていない願望はそれだけだったと気付いたんだ」
フォークを持つ手が止まった。それからアヴァールは肉を口にすると、もぐもぐと何度か咀嚼して飲み込んだ。
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