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第7話 朝、目が覚めて

鳥の囀りで目を覚ます。まだ夜が明けてそこまで時間が経っていないのか、雲が朝焼けを照り返し橙色に輝いていた。 アヴァールはまだ寝ているようで、すうすうと穏やかな寝息を立てている。 「…赤子、か」 確かにヴェルシュからすれば、人間などほぼ赤子同然の存在である。が、それは年齢に限ったことであり、その精神性などをそう扱ったことはない。むしろ、対等であろうとしてきた。 それなのに、この男といえば。上位の存在であろうとしたり、赤子のように振る舞ったりと──なんとも、忙しなく表情を変える子供のようだ、とヴェルシュは思った。 「俺に殺されてもおかしくないというのに…あどけない顔だな」 「ヴェルシュ、君はそんなことを考えるのかい?」 独り言を口にし、その頬に触れようとした瞬間──アヴァールが目を開けた。 「アヴァール…お前、いつから起きていた?」 「さて、いつからだろうね」 ヴェルシュが素早く手を元に戻す。するとアヴァールは上体を起こし、固まった身体をゆっくりと上へ伸ばした。 「ふう、おはようヴェルシュ。今朝の気分はどうかな?」 「最悪だ、お前のせいでな」 ヴェルシュが不機嫌そうに眉根を寄せれば、アヴァールは面白がるようにくつくつと笑ってベッドから降りた。 「君の機嫌を左右できて何よりだよ。…さて、私は朝の支度がある。屋敷へ戻るよ」 「お前、まさか寝間着のまま外へ出るわけではないだろうな」 「なぁに私の屋敷さ、寝間着で屋敷まで戻って何が悪い?文句をつけられる者もおるまいよ。…しかしこのままでは、確かに君が目のやり場に困ってしまうな」 現在のアヴァールは寝間着の胸元を大きく肌蹴させており─とはいえ、昨日の普段着と大差ないが─腰紐もすっかり緩んでしまっている。 「はあ…傲慢なのはいいが、だらしがなさすぎるのもどうかと思うぞ」 ヴェルシュがアヴァールに歩み寄る。そして腰紐に手をかけ解いたかと思えば、素早く着直させた。 そして腰紐を正しい位置できつく結ぶと、部屋の出入り口へと促す。 「早く行ってこい。俺は腹が減った、お前が行かねば使用人たちも困るだろう」 アヴァールは楽しげな、どこか幸せそうな笑みを浮かべると、顔の横でひらひらと手を振った。 「分かった、わかったよ。急ぎ身支度をして朝食を用意させるから、待っていてくれ。私もすぐに来るよ」 そう言うとアヴァールは閨を出て行く。ヴェルシュはその背中を見送ると、またベッドに腰掛けた。

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