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第17話 二人の間
「──これで、全部話したよ」
アヴァールはそういうと、ふう、と息を吐き出した。
木々の葉が風に揺れる音だけが響く。そして一際大きな風が吹き、その強さにアヴァールが顔を伏せ、また顔をあげると──ヴェルシュが真っ直ぐに、こちらを見つめていた。
「…なるほど、お前は……」
言葉は続くことがない。ヴェルシュはアヴァールの手に己の手を重ねたかと思えば両手で包み込み、額へと持っていった。それは神聖な儀式のような、祈りのような瞬間だった。
「っ……待たせすぎだ、馬鹿め…!」
ヴェルシュの手は小刻みに震えている。泣いているのかと戸惑ったアヴァールが顔を覗き込もうとするその前に、ヴェルシュはゆっくりと顔を上げた。
「おかえり、アヴァール」
あまりにも、穏やかな瞳だった。その頬に光っている水滴が涙なのか汗なのかなどはもう、最早どうだっていい。
そしてアヴァールは今やっと、焦がれた大切な存在を──その腕の中に収めた。
「嗚呼……ただいま、ヴェルシュ。私だけの、愛しいエルフ──…」
しかしヴェルシュは気が付いている。触れているその胸の鼓動が、あまりにも速いこと。背中に回された手が氷のように冷えていること。終わりの足音がもうすぐそこまでやってきているのだと、悟るには十分だった。
「昔はこうして触れることすらできなかったくせに、転生を繰り返して羞恥を忘れたのか?側近が見ているぞ」
ヴェルシュは茶化すようにそう言いながら、アヴァールの腕から抜けようとする。しかしアヴァールは力強くヴェルシュを抱きしめて離そうとしない。
「見られていようがどうだって構わないさ。羞恥?今世では捨てることにした。そうでなければ、富を築くなどできなかったからな。だから……今だけは、こうさせていてくれ」
ヴェルシュはそれを聞き届けるとため息をつき、そしてアヴァールの背中をぽんぽん、と二度叩いた。
「しかしお前、また置いてきた仕事があるだろう。それに昼食もまだ摂っていない、帰ろう」
「君はこんな時まで自分を優先しはしないのだな、せっかくの感動の再会だというのに…」
アヴァールがやれやれとわざとらしく首を振りながらヴェルシュを解放する。ヴェルシュは安堵にも似た気持ちでそれを見ると、立ち上がってアヴァールに手を差し伸べた。その手はしっかりとアヴァールによって握られる。最初に馬車から降りた時と立場は逆であれ、それを裏切る理由など2人の間にはどこにもなかった。
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