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第18話 お前のエルフ

屋敷に戻った頃には、陽が傾いていた。食事を摂ることもせず執務室へと戻ろうとするアヴァールをヴェルシュが引き止める。 「お前、まさかそのまま仕事をする気じゃあるまいな?」 「そうだが…何か問題でも?」 アヴァールは何が悪いか分からない、とでも言うように首を捻る。しかしヴェルシュには分かっていた。その足取りが重く、真っ直ぐに歩けていないと言うことを。 「仕事があるから戻れと言ったのは君じゃないか、どうして止めるんだ」 「最低限にしろ。そこまで無理をしろとは言っていない」 「無理じゃない、やるべきことをやるだけだろう」 「それが無理だと言っている、どうしてそれが分からないんだ!」 ヴェルシュの珍しい大声に、アヴァールの肩が跳ねる。次に、ぐい、と手首を引かれればアヴァールは振り解くことなどできなかった。そんな力がもう残っていないのか、それとも…。 「こんなに細い腕をして、仕事をすると言う方が馬鹿だ」 アヴァールの身体から肉が削げ落ちていることでさえ、ヴェルシュは気づいていた。 二人の間に沈黙が流れる。言い争いになるかと側近たちが騒つき始めた時、アヴァールが先に口を開いた。 「あぁ分かった、分かったよ。今日は皆に任せて私は確認作業だけを行うことにしよう、ベッドの上でね。それでいいかい?」 それを聞けば、ヴェルシュはゆっくりとその手を離す。 「分かった。食事も寝室で摂れ、俺が行く」 それから、 「俺は"お前のエルフ"なんだから、言うことを聞けよ」 と不機嫌そうに付け加えると、離れへと戻っていった。 「"お前のエルフ"、ね…その割には余りにも偉そうではないか」 その後ろ姿を見遣りながら、アヴァールはくつくつと笑う。そしてヴェルシュに言われた通りに寝室へ向かいながら、自分とアヴァールに軽食をと使用人に言いつけた。 アヴァールが寝室に入って微睡み始めた頃、コンコンとノックの音が響いた。 「アヴァール様、ヴェルシュ様がいらっしゃいました。それから、軽いお食事を」 「んん…はいれ…」 寝返りを打ちかけていた身体を仰向けに直しながら許可を下す。そしてやっと身体を起こした頃、部屋の扉が開いた。そこにはカップとサンドイッチの乗ったトレーを二つ手にした側近と、珍しく髪を束ねたヴェルシュの姿があった。

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