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「……別に、普通。でも」  「でも?」  エヴァンは幼い子どものように手足を丸め、ぽそりと呟いた。 「朔実といると、なんか落ち着く……」  すぽっと襟ぐりから顔を出し、晃大は横目でエヴァンを見る。 「……ふうん?」  それきり、エヴァンは瞼を閉じて反応を示さなくなってしまった。  料金は既に支払っている。「じゃ、また」とだけ言い残し、晃大は二〇五号室を後にした。   現在の時刻は午後八時過ぎ。九時からシフトが入っているが、バイト先までの片道はおよそ二十分ほど。もう少しまとまった空き時間があれば適当に友達でも誘って合流できるのだが、それよりも今は体力の回復を優先したい。一時間もヤッた後に休む間もなくフルタイムのバイトに入るのは、いくら体力に自信のある晃大でもキツい。  ――しゃーなし、一旦部屋戻るか。  戻っても、あまりくつろげるような空間ではないけれど。  結月と相部屋になってからほぼ一ヶ月が経過したが、未だこれといった会話をすることはない。晃大がバイトを終えて帰る頃には結月はすでに寝ているし、晃大が寝て起きる頃には結月はすでに大学に行っている。大学からバイトまでの空き時間や休日も晃大が寮で過ごすことはほとんどなくて、大抵は連れと集まってわいわいやっている。  結月のだらしなさは今なお健在だが、それに関して注意したことも一度もなかった。別に、気を遣って我慢しているわけではない。  部屋は綺麗に越したことはないけれど、ちょっとやそっと散らかっていたところで死ぬわけじゃない。晃大からすれば、そんなことでいちいちルームメイトと揉めることのほうがよほど面倒臭かった。  ――あいつ、部屋いんのかな。  まあどっちでもいいんだけどと思いながら開いた四〇二号室のドア、相も変わらず散らかり放題の玄関を見て浅いため息が零れた。  もういくらか板についた動作で転がった靴を端に寄せ、部屋の奥へと足を進める。膝を立ててベッドに座る結月はヘッドフォンをつけて漫画を読んでいるようで、こちらには目もくれない。  ルームメイトはルームメイトでも、所詮は他人。一ヶ月生活してみてわかったが、結月はそういうスタンスの持ち主らしい。「ただいま」や「おかえり」などといったやりとりは皆無に等しい。その辺に関しては、晃大もやりやすかった。  ――バイトまで、ちょっと横になるか。  この部屋で唯一、安心して寛げる場所。それは、晃大のベッドだった。ここから半分は晃大のエリア、みたいな境界線は特に作っていないので、床は満遍なくとっ散らかっている。けれどさすがの結月も、人のベッドにまでゴミを置いてくることはない。  膝をついてマットに乗り上げ、晃大はその大きな体躯をごろんと仰向けに横たえた。頭の下に手を組んで、数秒、意味もなく真っ白な天井を見上げる。あ、と思い至り、ポケットに入れていたスマホを抜き取った。

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