7 / 15

1-6

 晃大のスマホは、少し放置していただけでもすぐに何十件と通知が溜まる。大学の友人やらバイト仲間やら一回寝ただけの女の子やら――週末のバイト終わりなんかだと、下手すると百件近くいくときもあるくらいだ。  もちろん、全部には返信しない。そんなことをしていたらきりがないので、重要度に伴った取捨選択は必須だ。  あほらしいなと、たまに思う。だけれど自分は典型的な、浅く、広いのタイプの人間だった。  今来ている通知の大半が、今この瞬間を機にやりとりが途絶えても何一つ差し支えがないような相手ばかりだ。相手にとっても多分、自分はその程度の存在なのだろう。  虚しいとは思わない。その時々、ノリが合った人間とだけ時間を共有して、合わなくなればどちらからともなくフェードアウトする。お互い様の、後腐れない関係。それだけ自分は身軽だということだ。身軽で、気楽で、だからこそ、悲観する必要性は感じない。  例えばエヴァンなんかも、そのタイプの人間だったはずだ。というか、そうでなければ金と引き換えに体を重ねるなんて仕事はまずできないだろう。  しかし、さっき見たあの反応…… (朔実、待ってるから……早く抜いて)  何だろう、この釈然としない感覚は。  断じて、嫉妬などではない。晃大は何も、恋愛対象としてエヴァンを見ているわけではない。エヴァンがどこで、誰とセックスしていようと、そんなことはどうでもいいのだ。むしろそういうエヴァンだからこそ、晃大もまた、気楽に付き合いを続けてこられた。 (朔実といると、なんか落ち着く……)  続けて思い出した言葉に、作業のように返信を打ち込んでいた指先が止まった。 「……はぁ」  ため息をついて、だらりとシーツの上に両腕を垂れる。ふと目線をずらした先、視界に映ったあるものに眉が寄った。  晃大の頭の重みでわずかに弛む、真っ白な枕の上。目と鼻の先に添えられた、一本の細い糸のようなもの。近すぎて、すぐにはピントが合わなかった。  ――これって……。  じっと、晃大はその体勢のまま考える。  髪の毛……にしては、晃大のものとは色が違う。色素の薄いブラウン。結月の毛の色と同じだ。  しかし、それにしても違和感がある。結月は常に寝癖がついているものの、髪質自体は細くて柔らかそうなストレート。それに比べて、目の前に落ちている毛は、やけにチリチリと縮れていて…… 「って、陰毛じゃねぇか!」  気がつくと同時、晃大は声を上げて枕から頭を起こした。弾みで、枕に乗っていた陰毛がふわっと一瞬宙に舞う。 「きっ、たね……っ」  ありえない。仮にこれが自分の陰毛だったとしても、普通に引く。  少し前までエヴァンのチンコを掴んで扱いていた自分が言うのもなんだが、セックスという割り切った状況における許容範囲と、日常生活のそれは必ずしも一致しない。互いの性器にベタベタと触れ合いながらヤッたあと手を洗わずに寝ることはあっても、トイレでチンコを握って用を足したあと手を洗わずに戻ることはまずないのと同じだ。 「おい、結月」  さすがに看過できないと思い、晃大は立ち上がって結月のそばへと歩み寄った。  読んでいた漫画を下ろし、「んー?」ととぼけた声を出しながら、結月は装着していたヘッドフォンを首にかける。  すかさず、晃大は親指と人差指で摘んだそれを結月の顔の前へと突きつけた。 「これ、どういうつもりだよ」 「えぇ? これってぇ?」  結月はその大きくてくりくりとした目をすっと細め、晃大の指先を見た。

ともだちにシェアしよう!