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 その朝、晃大はガサゴソという慌ただしい物音で目を覚ました。窓から差し込む朝日にうっと瞼を細め、枕元にあったスマホで現在の時刻を確認する。  ――九時、八分……。  晃大が設定したアラームが鳴るのは、今から五十二分後の午前十時。前日は一時までバイトだったうえ、木曜は午後からしかコマを取っていないので、いつもならまだぐっすりと眠っている時間だ。  ぼうっとスマホを眺めること数秒、ちらりと、晃大は視線を横にずらした。  ――何やってんだ、こいつ……。  物音の正体は、およそ考えるまでもなく結月だった。まだ二年生ということもあり、週五回、全て一時限目からコマを取っているはずの結月が、どうしてだかまだ寮にいて、慌ただしく部屋の中を彷徨いている。 「ない……ない……」  どうやら、何か探し物をしているらしい。独りごつ声といい、落ち着きのない挙動といい、相当焦っているようだ。  ……こういうことにならないように、晃大は最低限、自分の所有物だけは決まった場所に置くようにしていた。一方で、他人のエリアにまで遠慮なく物を分布させている結月にとって、なくしたものを見つけるのは一苦労だろう。 「……」  ごろりと、晃大は壁側に向かって寝返りを打った。  こういうのを、世間一般では身から出た錆というのだ。結月が何をなくして、どう困っていようが、晃大には知ったこっちゃない。自業自得だ。  気にせず寝ようと瞼を閉じること、十分ほど――  物音は一向に止む気配なく、切羽詰まった結月の声が耳を掠める。 「どうしよう……発表、今日なのに……。このままじゃ、グループのみんなに迷惑かける……。どうしよう……」  よりにもよって、グループワークの資料をなくしたのか。厳しい教授なら、全員まとめて0点なんてこともなくはない。そうなると、間違いなく結月は非難轟々だ。  自業自得。自業自得、かもしれないが、それは流石に…… 「あー、ったくもう」  面倒くさいなと思いつつ、晃大は勢いよく身を起こした。途端にビクリと、床にはいつくばってベッドの下をのぞき込んでいた結月の背中が揺れる。 「な、何だ、いきなり……! びっくりさせるなよ……!」  振り返ってこちらを見る大きな瞳にはうっすらと涙の膜が張っていて、晃大は一瞬、返答に遅れた。 「……探し物? 今日、大学は?」  尋ねると、結月はうっと口ごもった。 「べ、つに……おまえには、関係ない」  相変わらず、可愛げのない態度。ああじゃあどうぞご勝手にと言い捨てて寝たいところだが、それを言う結月が泣きべそをかく子どもみたいに口先を尖らせているのを見て、そうともいかなくなった。  浅いため息をついて、晃大はベッドから腰を上げる。

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