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第9話 紅の寝台 其の九

 そう心に願った須臾の内に、薄く柔らかな唇によって、再び流し込まれる神澪酒の熱さに酔い痴れる。   「……ふ、んんっ……!」    熱い舌が絡んできて痛いほどに吸われたと思いきや、舌先でざらついた上顎を責められて、療はくぐもった艶声を上げた。  紫雨の舌が容赦なく口腔を舐め回すように蹂躙する度に、療の口の端から蜜が零れ落ちて顎を濡らす。  不意に唇が離れた。   「……っ、はぁ……」    唇に彼の吐息を感じて、思わず療が身を竦ませる。  紫雨の肉欲を含んだ深翠と目が合って、まるでその場に縫い付けられてしまったかのように、動けなくなった。  どきりと心が昂る。  逸らそうとした視線すらも絡め取られて、療は何とか誤魔化そうと、再びくすりと笑った。  だが上手く笑えなかったのか、紫雨の眼差しに鋭さが増す。   「……療」 「あ……」    自分の名前を竜の聲で呼ばれた刹那、余裕を取り繕っていた笑みは次第に蕩け、療の唇から艶のある声が漏れた。   互いに何も言わないまま、荒い呼吸だけが部屋の中に響く。   次は何をされるのか、どんなことを聲で命じられるのか。   (……いつまで自分を見てくれるのか)    心の中にある期待と恐ろしさが、綯い交ぜとなって自身を襲ってくる。理性と情欲の狭間は時として、格好の催淫剤だ。   「舌を出せ。……療」  「……っ」    甘やかに乱れ始めた息を整えながら療は聲に悦び従い、おずおずと薄桃色をした舌を彼に向かって突き出す。   じゅるりと淫靡な水音を立てながら、紫雨が療の舌をまるで口淫のように強く吸った。まるで瑞々しい果実を食らうかのように。  紫雨の喉が、ごくりと音を立てて動く。療の舌から溢れる蜜を、堪らなく美味なのだと言わんばかりに何度も啜り、もっと寄越せとばかりに甘く噛んだ。   「……ふ……んっ……んっ……!」    舌を強く吸われる度に、療の背筋を甘痛を伴った官能が背筋を駆け上がる。びくびくと震えてしまう身体と、次第に荒々しくなる息遣いが、まだこういったことに慣れていないのだと証明しているかのようで、腹立たしい。腹立たしいというのに、抗うことが出来ない。  真竜の体液には媚薬が含まれている。特に濃厚なのが真竜の精だ。そして唾液にも少量だが含まれていて、人には甘水のように感じるという。  まさに紫雨にとって療の唾液は、精力を齎す瑞々しい果汁だ。  再び絡められた彼の舌が、療の舌裏を(くすぐ)る。ここが弱いのだと知られたのは、果たしていつだったか。   「……ふ……っ! んんっ」    舌の裏にある筋を紫雨の舌先がじっくりと(なぞ)ると、療の唾液の蜜が溢れ出た。じゅるじゅると鄙陋な音を立てて舌を強く吸われれば、尾骶から這い上がってくる狂おしい官能で、身体の力が抜けていく。  気付けば紫雨の逞しい腕が腰に回されていた。易々と療の身体が彼によって抱き上げられる。  角度を変えて深い接吻を繰り返しながら、やがて療の背が紅の寝台の敷栲に触れた。  

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