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第10話 紅の寝台 其の十
紫雨の接吻 から解放されて、療は薄っすらと目を開ける。
薄紅色の天蓋を視界の端に捉えながらも、療の紫闇の目は紫雨の深翠に捕らえられたままだった。
彼が覆い被さるようにして、療の顔の横に手をつく。
逞しい紫雨の腕とさらりと落ちてくる金糸の髪が、逃れられない檻のようだと思った。
ふわりと紫雨から御手付きの甘い香りが漂ってくる。それは真竜の本能でもある、嗜虐性を無慈悲にも刺激するのだ。
(……ああ、あの首筋に)
食らい付いてしまいたい。
気付けば療の指は紫雨の衣着を掴みながら体勢を反転させ、彼の背中を寝台に押し付けていた。
「あ……」
どこか我に返った意識の部分が、療の心の中に動揺を呼ぶ。
そんな療を紫雨が、面白いものを見たとばかりに喉の
奥で低く笑った。
「そう急くな。ここ、だろう?」
紫雨が指差すのは、自身の首筋だ。
「──来い、療」
「……っ!」
その声は決して竜の聲ではないというのに、療は抗うことが出来なかった。僅かに戻った理性が少しずつ消えていく。
療は腕に力を込めて、紫雨の身体を寝台に深く押し付けた。荒々しい息を吐きながらグルッと竜の唸り声を出すと、紫雨の太い首筋に噛み付くような接吻を落とした。
紫雨が愉悦を含んだ声で楽しそうに笑う。
もっと受け入れてやろうと言わんばかりに、彼自ら衣着の合わせ目を開けば、逞しい胸板やくっきり浮き出ている鎖骨が露わになる。
肌をさらけ出した所為か、より感じることになった御手付きの香りに、療は堪らず彼の鎖骨に吸い付いた。じゅぱと鄙陋な音を立てて、彼の肌に媚薬混じりの唾液を淫靡に落としながら、唇痕を付けていく。
鎖骨に、雄々しい胸板に。
「すぐに食らい付くかと思ったが、随分焦らすじゃないか」
「──っ!」
紫雨の煽るような言葉に、療の身体は更に熱を帯びる。
「……はぁ……、っ、むらさめ……っ!」
震える声で名を呼びながらも、紫闇の目にはもはや理性の光はなく、獣じみた欲望だけが燃えていた。
熱に浮かされた療の口元から、鋭い牙が覗く。
紫雨の香りに酔い痴れ、言葉に誘われるかのように、療は彼のみ首筋へ顔を埋め、その白い肌へ牙を立てた。
「……っ、く……」
微かな痛みに眉を寄せた紫雨だったが、次の瞬間、くつりと喉奥で笑った。
「もっと深く刻め……牙痕を残せ」
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