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第15話 静けさと独白 其の一
室内にはまだ情事の熱の残滓があった。
「んん……っ!」
療が乱れた息を整えていると、ずるりと胎内から紫雨の剛直が抜ける。どぷ、どぷ、とひくつく後蕾から溢れ出てくる彼の白濁に療は身を震わせた。たとえ幻影であっても、彼が自分の身体で果ててくれたことに、療は昏い悦びを覚える。
療の全身に紫雨の重みがのし掛かった。
彼はどこか満ち足りたように目を閉じている。まるで幸せな夢の続きを見ているかのように、安らかな寝息を立てていた。
彼が服用している滋養の薬は、睡眠を促す作用もある。飲酒によって幻影を見たあとに、睡眠の効果が強く出てしまうのはいつものことだった。
療はしばらくの間、紫雨から強く香る自分の所有の証でもある『御手付き』の香りと、彼の熱い体温に酔い痴れる。今しか出来ないことだ。
大きく息を吸って一頻り堪能した療は、紫雨の重みから抜け出した。
途端に痺れるような鈍痛を訴えてくる腰と腹奥に、療はくぐもった声を上げながらも耐える。
(今から全て、消さなくては)
自分の中にある紫雨の痕跡を。
この痛みからどうにかしないと、他の後始末も出来ない。
療は自分の腹部に手を添えた。まるで白い霧のようなものが手から溢れ出たと思いきや、刹那の内に腹部の痛みがなくなった。そして本来ならば胎内から掻き出して、処理をしなければならないはずの白濁の熱も消えたのだ。どこかほっとしたような、疼くような寂しさを覚えたが、療はその心を見なかったことにする。
神気と呼ばれる真竜特有の『力』だった。
本来なら神気は傷を癒やすことに特化している。だが療は紫雨とのことがあってから、神気の『力』の応用で情交の様々な痕跡や匂いを消す『力』を自ら生み出した。
自分という存在が遊楼の離れ にいたという証拠を、紫雨が自分を抱いていたという証拠を残すわけにはいかなかったのだ。
(……紫雨はずっと夢だと思ってる)
自分を呼び出したことも、幻影を抱いたことも全て。
療はじんと痛む首筋に触れた。幾度か紫雨に噛まれた甘い痛みが、次第に感じなくなってしまうことに寂しさを覚える。
今宵、初めて知った紫雨の性癖を愛おしくも悲しくも思った。
(……香彩と……あんな……)
深く考えそうになる思考を、彼によって乱され脱がされた自身の衣着を整えることによって振り切る。
寝台の敷包布に残された白濁の染みも消し去ると、次は彼だ。
療はうつ伏せになってしまっている紫雨を、ころりと転がした。手に『力』を纏わせて、彼の首筋にある牙痕にそっと触れれば、始めから何もなかったかのような綺麗な肌になる。療はつつと彼の身体に指を滑らせて、痕跡を消していった。
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