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第17話 魔妖狩り 其の一
──紫雨との秘めた夜は、それから幾度も繰り返された。
場所は決まって同じ、紅麗の遊楼の離れだ。
酒と幻影に酔う彼の逞しい腕に抱き竦められ、療は息を呑む。
耳元へと落ちるのは、もうすっかりと欲を現した紫雨の熱い吐息だ。彼から漂う濃厚な御手付きの香りが、療の理性を奪い去っていく。
「……っ、あ、あぁ……紫雨……」
幻を抱く紫雨は初めは、どこか辛そうな顔をしていた。だが最近ではとても幸せそうな笑みを見せてくれることがある。
療はそれが嬉しかった。
たとえ自分を見てくれなくても、演技の中に素直に感じた思いを伝える。
もっと欲しいと口にすれば、紫雨の剛直は深く沈み込み、体の奥を容赦なく貫く。媚肉の隧道を強く掻き分け、奥にあるもうひとつの蕾を突かれるたびに、療は甘美な悦びに蕩かされた。
「……っ、ん……それ……っ、好き……もっと……っ!」
「ああ、いくらでも与えよう。もっと……乱れるお前を見せてくれ……っ」
「ああ……っ、んん、気持ち……いい、……んあぁっ!」
気持ちいいと、もっとしてほしいと、吐息混じりの艶声でそう伝えれば、紫雨の笑みは更に深くなる。
「……ずっと俺だけを見ていろ。お前は俺のものだ……っ」
「……っ、すき……、むらさ……っあ、ああっ……!」
たとえ紫雨が幻影を見ていたとしても。
幻影に掛けた言葉だとしても、与えられた法悦とこの身体を灼く白濁の奔流は真実だ。
彼と身体を繋ぐたびに涙が溢れるほどの快楽に溺れ、同時に切ないと思いながらも心が満たされていく。この腕に抱かれる一夜、また一夜が、何よりも大切で愛おしかった。
やがて全てが終わると、いつものように紫雨は眠ってしまう。療はあたかも最初から存在しなかったかのように、痕跡を消して彼の夢の一部になる。
紫雨の術力も全盛期まではまだ遠いが、療を抱いたことによって少しずつ回復していった。
だがこのまま彼を騙したまま、秘めた夜を繰り返すのか──療は心の中で葛藤する。
この秘夜を紫雨は覚えていないはずだった。酒と薬が残酷に記憶を奪い、すべてを夢に変えてしまうのだから。
だが紫雨は療を遊楼へ呼び出す。
理屈も理由もなく、ただ衝動にも似た執着と御手付きの本能のままに。
(……忘れてもオイラを呼び出すんだな……)
紫雨は気付いていない。
けれど彼が無意識に欲しているのは療だ。
その事実に縋りたかった。
忘れ去られる夜を繰り返しても紫雨に呼ばれる限り、自分はまだ彼の傍でその熱を感じていられる。
だがそれも長くは続かなかった。
紅麗の街を揺るがす不穏な報告が、療の元に届いたのだ。
──人ならざる者、魔妖を狙う集団が動いている、と。
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