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第19話 魔妖狩り 其の三

 いつもは『呼び出し』のみの式文だったというのに、まさか下知と同時とは。不意打ちを食らった療の顔がだんだんと熱くなる。  それほど彼に余裕がないのか。  療の予測は当たっていた。  久方振りの呼び出しは、まるで縋り付くかのような彼の力強い抱擁と、療の口腔と唾液を貪るような接吻から始まったのだから。   御手付きの本能もあったのだろう。もしくは捜索に使った術力を回復させたかったのか。  だが重ねられる視線や身体に触れる手、自分の胎内を啼かせる楔は、理屈では測れないほど切実で情熱的だった。   「……っ、あ、あぁ……紫雨……っ」    耐えられず艶めいた声で彼の名を呼んだ刹那、ふと紫雨の動きが止まった。  療は思わず紫雨を見た。  息を詰めて目を見開く紫闇に、彼の翠の瞳が揺らぐ。  いつものような夢心地の淡い視線ではなかった。  幻影の奥からまるで何かを見ようとしているかのような、深い眼差しがそこにはあった。   (……まさか……!)    歓喜で震えた胸は、途端に警鐘を鳴らす。   (違う、駄目だ……気付かれたら全てが壊れる。紫雨に『香彩じゃない』と知られたら……紫雨の矜持を傷付ける) (それに騙していたことがばれたら……!)    療は奥歯を噛み締めて溢れる声を我慢した。  だが声が聞こえなくなったことが不満だったのか。  紫雨が腰を引いた。   「……くっ……ふ……っ」    胎内の媚肉が引き摺り出されていく感覚に、療はくぐもった声を上げる。  そうして後蕾から抜け出そうになる直前で、剛直が一気に奥の奥まで貫いてきたのだ。   「──……!」    全てを紫雨に持っていかれた気がした。  深淵の奈落に堕ちて行きそうな、深い深い快感に声も出せない。身体に齎された悦楽に、内腿が痙攣して震えているのが分かる。  やがて療の若茎から白い凝りが勢い良く溢れ、自身の腹を汚した須臾。   「……っ──ぁぁやぁぁっ!!」    堪えていた療の喘ぎ声が室内に響いた。   (だめだ今は、声を我慢しなきゃいけないのに)     歓喜と恐怖、そして急速に高みに連れて行かれた快楽が、身体と心に絡み付いて離してくれない。  胎内の肉輪が剛直を締め付ける度に、彼の雄形を感じ取ってしまって甘い声が止まらなかった。  駄目だと分かっているのに、唇は勝手に彼の名を繰り返し呼ぶ。   「……紫雨……っ、んぁ……むら、さめぇ……」    もっと、と艶声混じりに療がそう言えば、僅かに紫雨が息を詰める。だがすぐに喉奥でくつりと笑った。   「……香彩……愛している……」 「──っ!」    安堵と絶望が同時に療の胸を打つ。  自分だと気付かれなかった歓喜は、安心と共に鋭い刃となって心を抉った。  療は思わず目を伏せる。   (幻でもいいと思うオイラは、すでに壊れている)    忘れられると分かっていても、騙していると分かっていても、自分はこの熱を求めずにはいられない。  腰元の律動が徐々に激しくなる中、療はひたすら彼を求めて啼いたのだ。  

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