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第26話 独白 其の二
胸の奥を掻き毟るような痛みが広がり、思考は次第に荒れ狂っていく。
喉の奥に何か硬い塊が詰まって、息を吐けば嗚咽になりそうだった。泣ければまだ楽なのかもしれない。だが涙は一滴も零れなかった。泣く資格すら持たないのだと、心のどこかで冷めた声が嗤う。
紫雨の未来を思えば、あの青年との縁は正しい。
国主の後ろ盾を持ち、半竜として子を成せる美しい者。
紫雨が大宰として背負う立場にふさわしい相手。
理屈では分かっている。
けれど理屈と心は別物だった。
焼けるような紅が網膜に焼き付き、視界から消えない。
──このままただひたすら焦がれて、胸を締め付けるような思い出を抱えたまま、風化するのを待つのだろうか。
そんな未来を想像した瞬間、呼吸がひどく浅くなった。
どれだけ時間が過ぎても、紫雨を想う心は消えず、ただ朽ちていくだけなのか。
その姿を、今日まさに見せつけられたのではないか。
(……結局、何年一緒にいても……オイラは……)
心が勝手に残酷な言葉を紡いでいく。
そう、何年一緒にいても。
どれほど神気を分け与え、術力の回復を手伝おうとも。
あの人にとって自分は、その他大勢の内の一人に過ぎないのだと──改めて認識させられた。
胸の内でぎしりと軋む音が響く。
心が壊れる音だ。
忘れたい。すべてを、幻のように消してしまいたい。
それでも消えず、焼け付くような痛みだけが残る。
(……忘れたい……)
その言葉が胸の奥で膨れ、全身を震わせた。
幻でもいいと願い続けてきた自分が、幻であったことを忘れてしまいたいと思った。
(では今度は幻影ですらない肉欲に堕ちるのか)
だがどうしようもなく、想い続けてきたものを壊したい衝動が生まれる。
──そもそも、紫雨にとって自分が相応しいわけがない。
療は己の血を思った。
自分は確かに黄竜という上位の真竜だ。
だがその片方は、人に恐れられ嫌われる鬼族の血が流れている。いまは大人しくなった鬼族だが、彼らの中には人を喰らう種族と、術力を自分の『妖力』へと変えてしまう種族がいる。
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