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第27話 独白 其の三

 まさに術師にとって天敵であり、忌むべき存在だ。   そんな自分が、紫雨に並び立てるはずもない。  相応しくない。生まれた時からそう決まっていた。     (……といっても、彼にとってオイラは眼中になかったけど)    苦笑が洩れる。  竜の名誉も、血筋も、役目も、あの人の心を惹きつけるものにはならなかった。  最初から、ただの代替でしかなかったのだ。  御手付きという偶然で繋がったに過ぎない、ただの部下だ。それを分かっていながら、勝手に心を寄せ、勝手に胸を灼かせてきた。滑稽だ。これほど惨めな道化はない。  瓦解した心は、もはや自分を保つことすら出来ない。  気配を消していたのも限界で、意識を手放せばこの場に膝を折ってしまいそうだった。  紅の暖簾から遠ざかるほどに、心は空虚に沈んでいく。  人々の声も陽気な笛の音も、街の煌びやかな光も、すべてが別の世界のものだった。  虚ろな身体を引き摺るように、ただ足だけが勝手に前へと進む。  視線の先にあるのは、夜に差しかかった紅麗の遊楼通りだった。   紅と橙の間のような色をした柔らかい灯が、通りにある紅と金の柱で建てられた楼閣を、幻想的に浮かび上がらせている。酒と香の匂いが漂い、見世の売り子の粋のある声が響く。まさに一夜の夢を与える歓楽の街だ。   (……一夜の、夢)    壊れたい。忘れたい。  幻でもいいから、もう一度あの温もりを錯覚したい。  紫雨じゃないと分かっていても、紫雨だと思わせてほしい。  幻夜ならば似たような場所でいいではないか。  紅の暖簾も、艶やかな調度も、薄紅の天蓋も。  紫雨と過ごした離れに酷似した部屋は、他にもあるだろう。   (……なら、もうそこでいいじゃないか)    胸を裂く痛みと渇望を抱えたまま、療は足を遊楼へ向けた。  自分を滅ぼすために。  紫雨ではない誰かに抱かれ、紫雨ではない熱で心を塗り潰してしまえば、この苦しみも薄れるかもしれない。  それが浅はかな逃避でしかないと分かっていても。  幻影に縋るより、なおいっそう虚しい結末になると知っていても。  もう、どうしようもなかった。    

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