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第39話 艶夢虚ろう 其の十二
たった一夜の偽りでもいい。今この瞬間に、誰かから必要とされ、愛おしげに触れられる熱を感じることで、『ここにいていいのだ』と自分に許しを与えたかった。
「泣きながらでいい。誰かを想いながらでもいい。この一夜の夢を……どうか感じてください」
陰は熟れた漿果に再び唇を寄せながら、蜜を絡めた指を、療の桃色の楔へと優しく滑らせた。
細い茎をいたわるように、けれど確実に熱を呼び起こすように、指先で先端を、そして裏の筋をじっくりと擦り上げていく。
「──っ……あ、はぁ……」
それは、傷ついた心をゆっくりと甘い蜜で満たし、宥めていくような、ひどく穏やかで官能的な愛撫だった。
かつて紫雨が与えてくれた、あの獣のように狂おしく全てを奪い去るような熱さとは違う。だからこそ、今だけは余計なことを忘れ、その優しさの波に溺れていられるのだ。
「……んんっ、は……」
胸の漿果を軽く吸われ、優しく舌で包まれるだけで、まるで成熟した果実のように熱く、硬く勃ち上がっていく。
身体の芯が疼き、腰が勝手に陰の指を求めて揺れた。
──『躾けられた』のだと、この身体が、かつて刻まれた愛撫の記憶に素直に応えてしまう。
(ああ、オイラ……本当に、触られるだけで、こんなに……)
かつて紫雨に愛された時の熱が、別の雄の手によって優しく呼び起こされていく。
そんな自分に戸惑い、胸の奥がきゅっと締め付けられるような切なさを覚えながらも、療はその手を振り払うことはできなかった。
陰もそれに気付いたのだろう。この身体が決して初 なものではなく、かつて片恋の相手に隅々まで愛でられ尽くし、熱を知り尽くしたものであるということに。
漿果を含みながら、陰がくつりと喉の奥で優しく笑った。その熱い吐息が尖った頂きに吹きかかるたび、療の身体はびくりと甘く跳ねる。
「とても敏感で……愛らしい」
「ん……そこで、しゃべらな、いで……、は……ぁ」
恥ずかしさに顔を赤く染め、悩ましげな吐息を漏らしながら、療は陰の頭にそっと触れた。
陰の熱い舌が、まるで極上の果実を味わうように、じっくりと、優しく漿果を舐め転がす。
焦れる身体を宥めるように、下腹をまさぐる指の動きはどこまでも甘く、滑らかで、療の張り詰めていた心の強がりを、じわりと温かく溶かしていった。
「私に預けてください。すべての熱を吐き出して」
胸元で囁かれる穏やかな声に、療の思考は次第に心地よい悦に染まっていく。あの人への寂しさも切なさも悲しみも、今はすべてこの熱い快楽の波に押し流して欲しい。
陰の骨張った手が、療の楔の根元を優しく握り込み、溢れ出た蜜を擦り込むようにして、熱い竿をゆっくりと上下に滑らせた。
「──ッ、ぁ……、ふ……ぅ、あ……っ」
擦り上げられるたびに、下腹部から心地よい熱がじんわりと広がっていく。
紫雨の時のように激しく奪い去られる熱さとは違う、ただ傷ついた自分を優しく包み込んでくれるような甘美な刺激。
療は小さく涙を零しながらも、その手の動きに身を委ね、甘えるように陰の腕にしがみついた。
切なさと、とろけるような昂ぶりが一気に収束し、身体の奥が甘く疼き出す。
「あ……、あ……っ! ん、あっあぁっっ!」
切ない吐息を漏らしながら、療はしなやかに背を反らせた。
頭の芯がふわりと白く染まる、波のような絶頂が押し寄せ、療は陰の腕のなかで細い身体を心地よく震わせる。
弾けた熱い白濁は、ドロリとした質量を伴って、陰の温かな掌のなかへと勢いよく吐き出された。
どく、どくと脈打つ楔から、張り詰めていた感情がすべて解き放たれるように熱が溢れ出す。
快い痙攣ののち、療は完全に力を抜いて、力なく寝台へと沈み込んでいった。
視界は涙に濡れてぼやけ、ただ、自分の激しい呼吸の音と、自分を優しく抱きしめる陰の静かな吐息だけが、心地よく重なり合っていた。
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