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第41話 艶夢虚ろう 其の十四

「——あ……っ」    陰の指先が後蕾の窄まりに触れる。襞の数をひとつひとつ丁寧に数えるような仕草で、療の白濁の熱を塗り込む。  陰はすぐに気付くだろう。  まだ熟していない硬い果実はこの窄まりだけで、胎内(なか)は蕩けるほど熟れていることに。  かつて紫雨の手によって、どこまでも柔らかく、貪欲に開発されてしまったこの秘所は、自分自身の意志とは関係なく、奥から熱い蜜をじわりと溢れさせる。  あの人に刻まれた肉体の『記憶』が、今は別の雄を招き入れるための滑走油となっている。その事実が、たまらなく惨めだった。  ゆっくりと陰の指が胎内へと入ってくる。   「あ……っ、ん……ぅ」    指先だけで媚肉の随道をくるりと回す、ただそれだけの探るような愛撫だというのに。紫雨によって開発された胎内はすぐに快楽を感じ取ってしまって、療の身体は弾かれたようにびくりと跳ねる。  陰の指は驚くほど慎重で優しかった。療が少しでも身を竦めれば動きを止め、細い腰を大きな掌で優しく撫でさすって強張りを解いていく。その甘やかすような手付きが、心の奥の最も柔らかい部分をじわじわと侵食していくようだった。 ​ 胎内の柔らかさを知った陰が、指をもう一本増やす。それでもすぐに熱く蕩ける様子に、更にもう一本増やされた。最奥をまさぐる指は、壊れ物を扱うようにどこまでも丁寧で甘美だった。  きつく引き絞られていた肉の襞を、痛みを与えないようゆっくりと、慈しむように広げていく。その執拗な優しさに包まれるたび、脳裏を掠めるのは紫雨の姿だった。   ​(ちがう。あの人の指は、もっと大きくて……もっと、痛いくらいに強引で、乱暴だったのに……)    かつて紫雨と肌を合わせた時は、幸せを感じる以上に息が詰まるほどの支配に身を縒り合わせていた。そして演技がばれないようにひたすら気を張って、彼の様子を探りながら閨の間中、演じ続けていた。  だがいま、別の雄の指にその聖域を汚されているというのに、療の身体は「拒絶」を忘れて、そのとろけるような甘い愛撫にじわじわと胎内を解かされる。   ​「は……ぁ、ん……、あぁ……ぅっ」   ​ 陰の指先が愛おしむようにそっと、けれど確実に一番敏感な凝りの部分をなぞった。 ​ その瞬間、頭の芯がふわりと痺れるような甘い楽が全身の神経を駆け巡る。痛みを伴わない、ただ自分をひたすらに甘やかしてくれる愛撫は、あんなに「紫雨だけのもの」と頑なに閉ざしていた心を融かし、身体の奥もどろりと甘く融かす。気付けば療の媚肉は、自らその指をきゅうきゅうと締め付けていた。   (ちがうのに……どうし、て……こんな……っ)    陰の指が肉壁を優しく撫でるたびに、背筋を這い上がるような心地よい痺れが、熱い愛液となって更なる蜜を溢れさせた。  心の中では、こんな風に他の男の指に縋って快楽を感じてしまうことが信じられないというのに、身体が抵抗出来ない。もっと奥へ、もっと甘やかしてほしいと、無意識に腰をくねらせて指を隧道に擦り付けてしまう。  紫雨が残した跡を汚されているというのに、他の男の甘い指先に翻弄され、抗うことなく蕩けていく己の身体。    ──これでいい。これで……いいんだ。    あの人はお見合いをして、自分ではない別の美しい伴侶を娶る。  もうあの人の傍にいられるのは、黎啓としての仮面を被る時だろう。   (……だったらもう……消してしまいたい)    あの人がこの身体に残したものを全て塗り替えてしまえば、いつまでもあの人の背中を追い掛けて泣いている自分を、少しでも慰めることが出来る。  出来る、はずだ。  

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