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第10話

(キスされてる!?)  驚きのあまり、俺は抵抗するのも忘れて茫然と龍承業のキスを受け入れていた。  彼の口づけは激しく、無理やり舌を差し込んできたかと思うと、俺の舌に絡み付き、お互いの唾液を交換するかのように口内を貪ってきた。龍承業の舌は熱く、俺の口内を隅々まで支配していく。  くちゃ……くちゃ……  龍承業の舌が動く度に俺の口の中で卑猥な水音が鳴り響き、否応なしに羞恥心が掻き立てられる。彼の吐息は熱く、微かに酒の香りを含んでいた。その息が俺の頬にかかる度に、体の奥底で何かが揺さぶられるような感覚を覚える。 「は……んっ……」  息ができない。佐倉遼だった時にも経験したことがない激しいキスに、俺はなすすべもなく翻弄される。  俺は思わず恐怖で目を瞑った。しかし、それが余計に龍承業の舌の存在を強く意識させ、俺の身体は自分の意思に反してどんどん熱を持っていく。  龍承業の舌が、俺の舌をなぞるような動きをみせる。今まで感じたことのない感覚に、俺は背筋がぞわっと逆立つような感覚に襲われた。それが快楽に近い感覚であることはすぐに分かった。自分の下半身が、こんな異常事態にも関わらず、じわりと興奮の色を見せ始めたからだ。 (嘘だろ……!?)  自分の反応に自分が困惑していると、龍承業がようやくその唇を離した。その瞬間、俺の口元からどちらのものともつかない唾液が滴り落ちる。  終わった……と、俺が安堵した瞬間、龍承業がいきなり動いた。 「いっ……!!」  突然の刺激に、冗談抜きで視界が真っ白になる。龍承業が、自身の膝を、こともあろうに俺の股間にかなり強い力で押し付けてきたのだ。あまりの痛みに、涙すら出てくる。 「……貴様は淫乱だな。たかが口吸い程度でをこんなにするとは」  そう言いながらも、龍承業は俺のそこに当てている自身の膝を小刻みに動かし、強い刺激を与えてくる。 「あ、あっ、いた……っ、やめ……っ!」  悲鳴とも嬌声ともつかない声が自分の喉から漏れ出る。こんな声、今まで出したことがない。俺は恥ずかしさで消え入りたい気持ちになった。 「止めてもいいが、その場合、貴様の要求を聞く必要はないな」  貴様の要求とはつまり、黒炎軍に略奪を控えるようにしてもらう要求のことだ。ここで彼に断られてしまうと、街の有力者に資金提供してもらうことが難しくなる。それはつまり…… 「痛っ……!」  龍承業の与える刺激が強くなり、俺の思考は雲散霧消する。龍承業は容赦なく、俺の腰を押さえつけて逃げられないようにしたまま、執拗に膝でに刺激を与え続けてくる。  容赦ない力なので、かなり痛い。  ──痛いが、それ以外に言いようのない快楽もあった。まるで痛みと快楽が混ざり合い、新たな感覚となって全身を駆け巡るかのようだった。俺はもはや何も考えることができなくなり、ただ泣きながら嬌声をあげることしかできなくなった。 「い、いや……痛っ……あ、ああっ……!」 「ふん、いい声で鳴くな。……外の兵士が聞いたらどう思うか」  龍承業のセリフで、一瞬だけ我に返る。そうだ、そういえばこの部屋に入る前に外に兵士がいた。あまり声を上げては兵士に気づかれてしまう。 「……っ、あっ……!」  しかし、声を抑えようとしたところで無駄だった。龍承業が、なんと俺の下衣に手を突っ込んで、俺の半立ちになっているそれを直接握ってきたからだ。 「い、痛い……! 離して……!」  俺の抵抗の言葉とは裏腹に、体は素直に反応している。龍承業の手が俺の肉棒を握った瞬間、先端から透明な液体が滲み出てきた。それに気づいた龍承業の口元に、冷酷な笑みが浮かぶ。 「聞けんな」  龍承業は顔に嗜虐的(しぎゃくてき)な笑みを浮かべると、俺のそこを掴んだ手を一旦離し、軽々しく俺を片手で抱き上げた。その腕力に、俺は思わず息を呑む。  そのまま彼は容赦なく俺の下衣を脱がせると、すぐ近くにあった机の上に俺を乗せた。冷たい机の表面が俺の熱くなった尻に触れ、思わず身震いする。 「ひっ……!」  龍承業の手に再び掴まれた俺の陰茎は、俺の心情とは裏腹に、すっかりと興奮しきっている様子だった。その先端からは先走りの液が溢れ出し、龍承業の指に絡みついている。 「ふん……淫乱だな」 「や、やめっ……!」  俺は必至に足を閉じようと抵抗したが、龍承業が片手であっさりそれを阻止してしまい、俺は大股開きの実に間抜けな恰好にさせられてしまった。下半身をさらけ出し、硬く勃起した肉棒を龍承業の前でむき出しにするという、これ以上ない屈辱的な姿勢。  対する龍承業は俺の様子など気にすることなく、俺のものを握ったままだった手を、急にゆるゆると動かし始めた。その指使いは絶妙で、痛いほどの強さと、ぞくぞくするような弱い刺激を交互に与えてくる。 「あ、あぁっ……あ……!」  声を出したくないのに、自然に声が漏れてしまう。先ほどから龍承業に与えられる刺激は強すぎて痛いものばかりだが、だいぶ痛みに麻痺してきてしまったのか、先ほどと同じように乱暴にされているにも関わらずどんどん快楽が強くなっていく。 「どうした、……先ほどまでの生意気な口ぶりはどこに置いてきた」 「やめっ……あっ、んんっ……!」  龍承業のからかいの言葉にも、もはや何の返事もできない。今はただ、彼から与えられる強すぎる刺激が過ぎ去るのをただただ耐えるしかできなくなっていた。  龍承業はそんな俺の様子を見て含み笑いをしたかと思うと、突然、俺を刺激していた手を止めた。あともう少しで絶頂を迎えようとしていた俺の身体は、突然止まった刺激にただ茫然とするしかできない。快楽の波が中断され、俺は空虚感に襲われた。 「え……」  龍承業は笑みを浮かべたまま、俺の両足をその手でがっちりと机に固定させた。身動きできなくなった俺を見下ろしながら、龍承業は残酷に告げた。 「続きはお前自身でやれ」 「な……!」 「見ててやる。続きは自分の手でやれと言っているのだ」  あまりに無慈悲な要求で声も出ない。を自分で(いじ)れと?  しかし、自分の感情とは裏腹に、自身のそこはかわいそうなほど屹立(きつりつ)し、刺激を求めている。先端は紫がかった赤色になり、筋がはっきりと浮き出ている。龍承業は冷淡な笑みを浮かべたまま、俺のことを見下ろしていた。彼の視線が俺の肌を焼くようだった。  このままではどうしようもない。俺は諦めの境地で、自分の手で興奮したそこをゆっくりと掴んだ。  握った感触は、佐倉遼のころのサイズ感とそこまで変わらない。俺は泣きたくなる気持ちを抑えて、佐倉遼のころの自分がやっていた時を思い出しつつ、マスターベーションを開始した。掌で優しく包み込み、上下に動かし始める。 「んっ……!」  龍承業によってギリギリまで(たかぶ)らせられていたそこは、自分が少し触っただけでも痺れるような快楽をもたらした。俺は龍承業に見られていることも忘れ、ただひたすら快楽を求めるように自身を慰め続ける。 「はぁ……っく……んっ……」  興奮で反り立った自身の分身を握り、刺激を与える。先ほどまでの刺激が強すぎたせいか、半端な触り方ではなかなか絶頂にたどり着けない。もっと強く、もっと早く、と手の動きは自然と加速していく。  その間にも、龍承業の視線は俺の全身をじっと観察していた。先ほどとは比べ物にならないほど強く突き刺さる視線。  見られているのだ、自分のこの痴態を。余すことなく。  彼のほうをちらりと見た。長い黒髪が肩から流れるように垂れ下がり、なんとも色気のある風体だ。身体つきも自分とは比べ物にならないぐらい逞しい。  ──俺は、この誰よりも強いこの男にいま、すべてを見られている。征服されている。  そのことを意識した瞬間、羞恥と興奮が身体を駆け巡った。もう何も考えていられない。俺はただただ身体が求めるままに、張り詰めた自分自身を強く刺激した。息が上がる。身体が震える。 「あ、あ、あっ……っ……!!」  刹那、強い快楽が身体の中を駆け巡った。俺の腰は無意識のうちに弓なりになり、ビクビクと強い痙攣を始める。  頭が真っ白になったかと思うと、自分の下半身から熱いものが溢れ出し、白濁した精液が自分の手にかかった。絶頂の波が押し寄せ、俺は意識が遠のきそうになる。 「はぁ……はぁ……」  俺が息を整える間、龍承業はずっとその様子を眺めていた。 「ふん……まあまあの余興だったな」  彼は俺の足から手を離すと、まだ息の荒い俺を一瞥した後、まるで興味を失ったかのように(きびす)を返した。 「よかろう。お前の要求は聞いてやる」  一瞬なんのことを言っているのか分からなかったが、それが「略奪を控えてほしい」という自分の要求のことを指していることに気づき、俺は慌ててお礼を言った。 「あ、ありがとうございます!」 「……おかしな奴だな。こんなことをされてなお、礼を言うとは」  確かに。……というか俺、いまこの人に何された?  冷静な思考が戻ってくるにつれ、時間差で自分の痴態が思い出されてくる。俺は慌てて下ろされたままだった自身の下衣を引っ張り上げると、机から飛び降りて龍承業から急いで距離を取った。  龍承業はそんな俺の猫のような反応を見て、くっくっと喉を鳴らした。笑っている。 「安心しろ、商人。余興は終わりだ。もう何もしない」  そう言うと、彼はさっと手を振り払う仕草をした。もう出ていけという合図だ。  俺は狐につままれたような気持ちで、慌てて太守の館から逃げるように退出した。

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