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第7話

人はどうして心では違う人を思いながら、違う人を好きになれるのだろうと思っていた。 アイツ……山名邦正(やまなくにまさ)は中学の時、仲の良い奴らにいた。目立つ顔立ちで喜怒哀楽がハッキリした性格だった。不良グループと仲が良いとか、喧嘩してたとか噂があったが実際よく知らないくらいの仲だった。 相容れない……だろうなと思っていた。 中学三年で同じクラスになり、見た目とは違う一面をみせるようになった。意外に読書が好きで成績がいい。邦正は俺といると気を使わないでいいと言っていた。馬鹿だが気を使えるやつなのだ。 進学も特にこだわりがなかった。通学が億劫でない高校を選んだ。邦正は俺が茶道家の息子だから有名な進学校目指すと思っていたらしかったが。 俺には三つ年の離れた兄がいる。名の知れた茶道家の父は兄にしか興味かなのだから…… 父の気を引こうと幼い俺は、勉強も運動も人一倍頑張った。父が関心を持ったのは始めだけ「優秀である事が当たり前」のように思っている父に、いつしか反発するようになった。 あの日、志望校を自分で決めた学校へ行くと報告する為、稽古場にいる父に声を掛けた。 父は茶碗の中を軽快に茶筅で点てていた。 迷いのない動作で茶筅をゆっくり抜き、茶碗を俺の前へ置いた。濃厚な翡翠色を帯びた泡が弾けることなく、茶碗の中に浮いていた。俺はそれを眺めるだけで口は付けなかった。 「好きにしなさい」 父はそう言いって俺を見る事はなかった。その時、悟ったんだ。父は俺に関心がないんだって……それ以来、俺は茶道に関わらなくなった。

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