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9話 ハーフは弱りやすい
天馬とルイは焚き火から少し離れたところで肩を寄せ合って、目を閉じる。
眠れなくて天馬が体勢を変えていると、ルイの寝息が聞こえてきた。
こんなところでもすぐに寝られるの羨ましいな。
「……今日は楽しかったな」
ルイの寝息を聞きながら、天馬はそっと目を開ける。夜空には星がちらほら見えていて、静けさに心が和らぐ。けれど――身体の奥から、じわじわと不快な熱が這い上がってきていた。
「はぁ……魔法使いすぎた」
頭が痛い。視界がぼんやりしていて、身体も震えている。
「くそ……ルイの方が絶対魔力多く使ってんのに」
ハーフってもともと魔力が少ないから、あんまり使うと身体に良くないんだよな。
「うぅ……さみぃ」
天馬は思わず自分の身体を抱きしめる。
焚火のそばに近づいて、天馬は座り込む。
「は、はぁ……はぁはぁ」
悪魔は、人と違って魔力で体温を調節する。でもハーフの天馬は、魔力を使いすぎるとそれができなくなって、急に身体が熱くなったり寒くなったりしてしまう。
調節に必要な分がないから、体温のコントロールが効かなくなるのだ。
「あつ……くそっ」
身体がおかしい。下半身は寒いのに、上半身は火を当てられたみたいに熱い。
「天馬?」
ルイが目を覚ましてしまった。天馬の声が聞こえたのかもしれない。
「汗すごいよ? あっつ! 帰ろう。火消すから」
天馬の額を触って、ルイはあまりの熱さに声を上げる。
天馬の背中を撫でてから、ルイは紫の火を消す。
「ごめん……そうしてもらえると助かる」
右手で濡れた服を持ち、左手で天馬の肩を支えてルイは天馬の家へ戻る。
「おばさん!」
ルイがドアをノックすると、ユリシアはすぐに玄関のドアを開けてくれた。
「あ、ルイくん? 二人ともびしょびしょじゃない! 一体どこに行って……え、天馬、まさか……何かあったの?」
心配そうな顔をして、ユリシアは天馬の肩を掴む。
「はあ……ま、魔法使いすぎた。熱い……寒い……う……吐きそう」
顔を青白くして、天馬は口を抑える。苦しい。胃が逆流している。
「え、使いすぎたってなんで」
「森で、ルイと遊んでて……」
吐き気の波に襲われてしまい、天馬は口を開く。
「お、おばさん袋」
「ゴミ箱に吐いていいわよ」
玄関の隅にあるゴミ箱を取って、ユリシアは天馬に渡す。
「う……ゲホッ!」
ルイに背中を撫でられながら、天馬は白い魚の身とつばを吐く。ゴミ箱の中を見て、ユリシアは首をかしげる。
「川魚? 天馬、もしかして濡れた?」
「濡れたし、十回くらい魔法使った。やっぱダメだな。魔力少ないのに、そういうことしたら」
ユリシアは目を見開く。
「もう、無茶しちゃダメよ!」
頭が割れるように痛い。
「おばさん叫ばないで……頭に響く。……くそ……ごめん。力出ない」
ゴミ箱が天馬の手から滑り落ちる。ルイは慌てて、ゴミ箱を掴んだ。
「ルイくん、私ここ片づけるから、天馬寝室まで運んでくれる?」
ルイからゴミ箱を受け取って、ユリシアはいう。
「うん……天馬、行こ? あつっ?」
腕に触れたら、火花が出てルイを攻撃した。
「……ごめん、魔力漏れてる」
「なんで……?」
ルイが首をかしげて天馬を見る。
辛すぎて説明ができなくて、天馬は何もいわず、首を振った。
「ルイくん、天馬歩けるから、誘導してくれる? 身体は支えようとしなくていいわ」
「う、うん」
ユリシアが後ろを向いて、ルイにいう。ルイはすぐに頷いて、廊下の突き当りにある扉を開けた。
「何の騒ぎだ」
ダイニングにいた天馬の父親が首をかしげる。
「天馬が熱出しちゃった。歩くの辛そうなんだけど、支えようとしたら火が出ちゃうから」
「天馬……」
父親が腕を触ると、天馬は顔をしかめる。
「んっ……やめ……っ」
「少し魔力を渡した。今すぐは無理だろうが、これでそのうち火が出なくなる」
「父さん、何で……」
天馬は父親を見つめ、首をかしげる。
「お前の火で家の家具が燃えたら面倒だろう」
あ、家の心配をしているのか。
「天馬が心配でしたっていえばいいでしょ? ルイくん、早く! ベッド入れて、毛布かけてあげて」
「うん!」
汚れたタオルを持ったユリシアの声を聞いて、ルイは慌てて足を進める。
ルイを追っていたらまた頭痛が襲ってきった。天馬はつい頭を抑える。
「天馬? 歩ける?」
「歩く。気にすんな」
声がかすれてしまう。
ルイは何もいわず、天馬の手を掴んだ。
「お前馬鹿……火傷するぞ」
「ううん、もう熱くないよ。火花出てない」
火は本当に出ていなかった。父さんのおかげか。
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