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10話 ハーフの身体は熱でちぐはぐ
寝室に着くと、ルイはすぐに毛布をどかして、ベッドに天馬を寝かせてくれた。
天馬はびくびくと肩を震わせる。上半身は真冬みたいに寒いのに、下半身は焼けるように熱い。寒さが骨を叩く。
「さむ……はぁ、はーはー。ルイ、毛布肩にかけて欲しい」
ルイが毛布をかけると、天馬はすぐにそれを投げた。
「あっつい……なんで……」
「寒い? 熱い?」
毛布を拾ってから、ルイは天馬に近づいて心配そうに首をかしげる。
「……下半身は寒くて、上半身は熱い。……体温バラバラで、おかしい」
震える手で、ベッドの横にいるルイの肩を掴む。何かを触ってないと、辛すぎて意識を失いそうだ。
「うあ……あ……ひっ」
体温を一定に保とうとしているのに、そのために足りない魔力が暴れて、身体から火花を出す。自分の意志で出してないから、火花が出るたびに皮膚が焼かれるような痛みが走る。
ぱちぱちと身体の周りにある毛布やベッドシーツが焦げる音が耳に響く。
「え、おじさんが触ったのに」
「……一時しのぎにしかなってないな」
投げた毛布を掴んで、肩にかける。顔から出る涙は寒さで凍っているのに、足はかなり熱い。ちぐはぐすぎて嫌になる。
「ルイ……怖い。寒い……う、あ……」
天馬の両腕がびくびく震える。
肩に触れている手がぱちぱちと弾けて、ルイは目をつぶってしまう。
「ごめ……んっ?」
謝ろうとしたら、片手で口をふさがれた。
「痛くない。火傷するほどじゃないから大丈夫。落ち着いて、俺は何があっても離れないから」
大きな瞳でまっすぐに見つめてくれた。天馬は何もいわず頷く。
「はあ、はーはー。ルイ……お願い。おばさんにいって、ホットミルクもらってきて。それ飲めば少しはましになると思うから」
「わかった!」
勢いよく頷いてルイは部屋を出て行く。
「くそ……うぅ」
頭が何かで貫かれているみたいに痛い。
また体温がおかしい。足が寒い。
「ルイ……早く」
「もらってきたよ!」
ドアが勢いよく開いて、コップを持ったルイがそばに来る。
走ってきたのか、額から汗が出ている。
「ありがと」
天馬の顔にコップを近づけて、ルイは首をかしげる。
「自分で飲めない?」
「そうだな。多分今俺が触ったら、コップが割れる」
「飲ませるから口開けて」
「んっ……はぁ」
コップを口元に近づけ、ルイはミルクを飲ませてくれた。
「子供扱い」
「いいじゃん。俺だってたまには天馬のこと支えたい。美味しい?」
背中を撫でられて囁かれる。
「うん……寒くなくなった」
熱が全身に回って、温度が一定にされていくのがわかる。
「昔さ……俺がこうやって弱ると、母さんがホットミルクくれたんだ。ハーフ用の薬ってないし、氷枕もタオルも意味ないから焦ってたら、お湯を飲んだ時だけまともな顔したから、こういうのを飲ませるようにしたんだって」
「お母さんのこと、覚えてるの?」
「その時の記憶だけ。それ以外はもう忘れた。昔すぎて。……二十歳でホットミルクが好物って、ガキみたいだよな」
「うん、可愛い」
「はぁ? うっ、ゴホゴホ……」
ミルクが体内で解けてしまったのか、また肩が寒くなった。
「もしかして寒い?」
天馬が肩を震わせていることに気づいたのか、ルイは首をかしげる。
「あぁ……やっぱ魔力もらうのも飲み物も一時しのぎだな。……このままじゃ魔力尽きる」
「なくなったら、どうなるの?」
「……たぶん気絶する。それで目が覚めたら熱が引いてると思う。……前は魔力枯渇じゃなくて、初めて人間界に行った日に雪が降ってて、寒さが辛くて体調崩して気絶したから、わかんねぇけど」
苦笑する天馬を見て、ルイは不安そうに顔を覗き込む。
「何日寝てたの?」
「一週間くらい。死んだみたいに眠ってて、おばさんは気が気じゃなかったらしい」
「俺嫌だ、そうなったら」
ルイが天馬の腕を握る。とても力が込められている。
「じゃあずっとそばで、手握っててくれないか。そうしてくれたら疲労が紛れるかも」
ルイは手を動かし、天馬の手を握る。
「……俺、ルイに迷惑かけてばっかりだな」
「違う! そんなことない!」
「……そうだろ。やっぱハーフってゴミだよな。役に立たない魔法しかできないし、使いすぎたらこんなことになるし。本当に生きている価値ない」
「……っ、俺はそれでも生きてて欲しい。みんな価値がないっていっても、俺だけは天馬に価値があるっていうから」
瞳から涙を零しながら、ルイはいう。慌てて、ルイの背中を撫でる。
「ごめん、ルイ。俺、ずっとわかんないんだ。存在理由とか、生まれた意味が」
「俺だって知らない。でも天馬が隣にいるだけで、俺は明日も息をしようって思えるんだよ?」
「……俺も、そうかもしれない」
ルイが隣にいるだけで、死なない理由になる。天馬はそっと、ルイの身体を抱きしめた。
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