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11話 やっと死んでくれたって思う

「はぁ……ヤバ。意識飛びそう」  視界がぼやけてきた。  まぶたが熱くて、目を擦ったら火傷をしそうな気がする。 「た、楽しいこと考えよ! ……天馬、熱が引いたらまた魚取りに行こ。今度は魔法使わなくていい。俺が一発で取るから!」  自信満々な態度でルイはいう。 「はぁ。……へぇ。そんなことできんの?」  身体が辛くて思わずため息を吐いてから、天馬はにやっと口角を上げる。 「できる! 絶対に捕まえてみせる!」  天馬はつい、口角を上げた。 「いったな? 手伝わないからな……うっ、うぅ……」 火花が出ているせいで身体中が痛くて、天馬はつい眉間に皺を寄せる。 「天馬? 大丈夫?」 「ゴホッ、ゴホゴホ……ルイごめん、もう限界かも」 「え、そんな……嫌だ! もっと話したい!」  ルイの声を聞いて、天馬は微笑む。 「大丈夫……ちょっと眠るだけ。また話せるよ」 ルイの頭を撫でながら、天馬は目を閉じてしまう。 「天馬!!」  意識が途切れる寸前、耳元で聞こえたのは、ルイの悲鳴だった。 「ん……ルイ?」  目を覚ますと、ルイが自分の手を握って、ベッドのそばの床に座り込んでいた。寝息を立ててぐっすりと眠っている。  意識を失ってから、どれくらい時間が経った? 「ルイに心配かけちゃったな」  泣いて真っ赤になっている顔を撫でていると、ルイはゆっくり目を開けた。 「天馬? 天馬ぁ!!」  勢いよく抱きついてくる。 「ちょ……ルイ苦し……暖かいな」  ルイの背中を撫でて、天馬は嬉しそうに口角を上げる。 「天馬、三日も寝てたんだよ? 俺ずっとこのまま起きなかったらどうしようって……」 「そうなのか。ごめんな、本当に」  胸に顔を埋めてくるルイの頭を撫でる。 「ううん。身体はどこも痛くない?」 「あぁ。でも寒いな」  ルイが目を見開く。 「え、お、俺……ユリねえに原因聞いてくる!」  慌てて、ルイは部屋を出ていく。  部屋に入ってくると、ユリシアはすぐに中央にある机の上にコップを置いた。 「ああ天馬、よかった!」  勢いよく天馬を抱きしめて、ユリシアは叫ぶ。 「おばさん、痛い。はっくし! 寒っ」 「ああ、ごめんね。これ、飲みなさい。ホットミルクよ」  ユリシアがコップを渡すと、天馬はすぐに中身を飲む。 「……魔力枯渇の話だったわよね」 「うん」  天馬とルイはこくりと頷く。 「悪魔が魔力で体温を調節しているのは知っているわよね? 今の天馬はそれができない状態なの。だから寒いのよ」 「戻らないの?」  ルイを見て、ユリシアは首を振る。 「純血の悪魔ならこの前みたいに誰かにもらえば元気になれるんだけど……天馬はハーフだから、あまりもらうとよくないの。ハーフは悪魔の魔力も天使の魔力も一定数ないと……どちらかが多いのはダメなの」 「じゃあユリねえも分ければ」 ぱっとルイの顔が輝く。ルイの肩に手を置いて、天馬は首を振る。 「ルイ、おばさんは俺の本当の母親じゃない。血がつながっていない者同士で分け合うと、どんな影響が身体にあるか分からないから」 「え、でも、それじゃあ天馬は……?」 「持って一年ね。魔力がない状態で、それ以上永く生きれた子はいないわ」  そうなのか。天馬はわざと笑みを作った。 「はは、よかったじゃん。魔力もない、あったところで役に立たない魔法しか使えない奴が死ぬんだから。みんなきっと、やっと死んでくれたって思う」  バチン!  涙を流しながら、ユリシアが天馬の頬を叩いた。 「なんのために、今まで必死で人間界から遠ざけて、怪我をさせないようにしてきたと思ってるの! ……たとえ冗談でも、そういうことをいう子にだけは育ってほしくなかったのに」  叫ぶユリシアを見て、天馬は冷静にいう。 「だって事実だろ。だからノアも離れた。いつか、ルイも離れる」 「未来のことなんてわからないでしょ! はぁ……おかゆ作ってくるわ」 ため息をついてから、ユリシアは部屋を去る。 「天馬……俺は、離れる気ないよ? ずっとそばにいる。捨てないよ、天馬のこと」 「……そうだと思いたいよ。でも、お前が離れたくないって思ったって、父親は、悪魔界の王はそれを許さない」  迷いなく、天馬はいい切る。 「俺、おかゆ作るの手伝ってくる」 ルイが部屋から去っていく。 「……さむ」  もう一度ホットミルクを飲むと、温もりが胸に広がって、心が温まった。 『何のために怪我をさせないようにした』か。役立たずでも生かすためってことなんだろうな。部屋に戻ってきた時に、自分がまた後ろ向きなことをいったら、さらに泣かせてしまうかもしれない。   ……風に当たってこよう。そうすれば気分転換になって、いわないで済むかもしれない。

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