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14話 天使の魔力
「はぁ……はぁ。天使の分の魔力はいいのかな。ないままだけど」
ルイが天馬の手を握る。不安なのかもしれない。
「何もないよりはマシだから。それに天使の魔力については、血を飲むんじゃなくてももらえる方法がある」
「え、そうなの? もっと早くいってよ!」
またルイが目を丸くする。
「ごめん。でもこれも情報が不確かだから、いいづらくて」
「はぁ。魔力供給って、不確かなこと多いの? さっきからわからないって話ばかり」
ルイが嫌そうにため息をつく。確かに。
「はは、そもそも魔力をなくすことが悪魔の間では滅多にないからな。俺以外は」
つい作り笑いをした。笑っていたら、少しでも希望が見つかる気がしたし、心も明るくなるような気がしたから。
「……そっか」
「天使は戦闘を滅多にしないから、そもそも怪我をすることがないらしい。……だから、例えば事故で誰かを瀕死状態に追いやった天使が、その命を救うためだけに、魔力が保管された瓶が販売しているらしい」
使った奴は誰もいないらしいから、本当の話かわからないけれど。前にそうユリシアから聞いた。
「どこに?」
天馬は首を振る。
「わからない。母さんが亡くなってから俺、今度魔力が少なくなったら、それを買うようにおばさんにいわれて。だから知ってるだけで、場所は」
「天使界にしかないの?」
そう考えた方が良いだろうな。
「……悪魔界にも探せばあるかもな。でも天使の魔力は悪魔界じゃかなり高値だからな。きっと命懸けで店主が取ったものだから」
「そっか。じゃあやっぱ天使界に行くしかないか。……天馬が行ったら、歓迎されない? ハーフだから」
「ああ。でもおばさんも俺を心配して無断で悪魔界に行ったせいで、天使界から追放されてるからな。だから歓迎されない」
「じゃあ行かない方が」
「でもそれしか方法が。あ。もしかしたら、ヴェルルメイユの店にあるかもしれない」
わからないけど。
「えっ、そうなの?」
「ああ。天使の魔力が入った瓶はわからないけど、天使の匂いの香水ならあった気がする。それにも多分、天使の魔力も入ってる」
「じゃあすぐに!!」
ルイはすくっと立ち上がる。次の瞬間、ルイはふらついて倒れそうになる。
慌てて肩を掴み、ベッドの上に座らせる。
「おっと。ルイは留守番な? ここで待っててくれ。おばさんと行ってくるから」
頭を撫でて笑う。俺のことを気にしてくれているのは嬉しいけど、今は安静にさせておかないと。
「わかった」
天馬を見つめながらルイは頷く。外に出たら、また自分が怪我を悪化させたり傷を増やしたりして帰ってこないかと、思ってくれているのかもしれない。服の裾を掴んでくれた。心配してくれて嬉しい。
「そんな顔するな。ヴェルメイユは怖くないって、ルイも知ってるだろ?」
「うん。また誰かに襲われたら、すぐ逃げてね」
「もちろん。じゃあ行ってくる。プレーンも買ってくるから」
まさか自分が、同性の悪魔にこんなに心配されるようになるとは思わなかった。すごく嬉しい。生きててよかった。
「わかった」
ルイを見て、天馬は首をかしげる。
無理に笑っている?
「ルイ、今日何か食べたいものある? プレーンと血のスープでできたリゾット以外で」
「……動物の肉が、食べたいかもしれない」
天馬は目を見開いてしまう。
「ルイ、お前……」
ついに、肉を食べたくなったのか。血のスープのリゾットを美味しそうに食べていた時から、いつかこうなる気はしていた。でもやっぱり、初めて聞くと衝撃が大きいな。
「なーんてね、嘘だよ嘘! 俺がそんな父さんや姉ちゃんみたいなこというわけないじゃん!」
「わかった。買い物は父さんと行ってくる」
「えっ、だから買ってこなくていいよ! 天馬?」
ルイの声を無視して、天馬はドアを閉めた。本当は欲しいのだとわかっていたから。
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