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19話 変わり者同士で、夜を明かす

 地面に座り込んで空を見上げる。  夜なのに灰色の雲で覆われていて、月は見えない。この空をルイも見ているのか……? 「お待たせ。はい」  青年から渡されたレバーを袋ごと食う。そんな天馬を見かねて少し思うところがあったのか、青年は自分で袋を開けてから、プレーンを天馬に渡した。十個以上一気に口に入れる。  乱暴な食べ方にひびっているのか、青年は一歩ずつ天馬から離れていく。 「ゴホッ。おい、なんか飲み物」 「ああ、はい。一応ココア買ってきた」  蓋を開けてから、青年はペットボトルを天馬に渡す。飲んだ瞬間、天馬はココアを吐いた。 「えっ。悪魔って、ココア飲めな……」 「ゴホゴホッ! お前、殺す気か! ずっと常温の物食べてたのに、急に熱いもの渡してんじゃねぇよ! 火傷するだろうが!」  天馬は思わず青年を睨みつける。 「は? アハ、アハハハハ! 悪魔でも火傷ってすんの? 面白……ハハ。何かお前、悪魔というより血が大好きな人間みてぇ」  腹を抱えて青年は笑う。やけに具体的な返しだ。 「なんだそりゃ。そんな人間がいるわけねぇだろ」 「確かに。……いたら大問題だな。な、俺和哉。一色和哉(いっしきかずや)。お前は?」 「天馬」  まさか人に名前を教える日が来るなんて思ってなかった。 「天馬、まだ何かいる?」  天馬は首を振る。 「いや、もうだいぶ何も食べてなかった時よりマシだから良い。ありがとう」  和哉は瞬きをする。 「ハハ、生まれて初めて悪魔にお礼いわれた。……なあ、仲間は? 悪魔って、単独の時と群れの時があるって学校で習って」  天馬は軽く口角を上げる。 「仲間はもういねぇよ、俺には」  空になったプレーンの袋と、飲みかけのココアを天馬は和哉に渡す。 「もう? 前はいたのか?」  天馬の顔を覗き込んでくる。とことん素直な奴だな。誰かさんによく似ている。 「ああ。今はどこにいるかもわからないけどな」 「そうなのか。また会えるといいな」  空を見上げながら、和哉は笑う。 「……会わなくていい」 「アハハ。会いたそうな顔して何いってんだ」  和哉の言葉を聞いて、心臓が脈を打つ。 「お前も人ならわかるだろ? 会いたくても会わない方がお互いのためになる時もある」 「いや、一緒にいたいならそうした方がいいだろ」  天馬は瞬きをする。 「……そうだけど、でも、俺達は誰にも交際を祝ってもらえないから」 「恋って、祝ってもらうためにすんの? その人じゃないといけないと思ったから、誰に祝ってもらえなくても恋をし続けるんじゃねぇの?」  雷に撃たれたような気がした。そうだ。祝ってもらいたいことなんて、そばにいない理由にはならない。 「……そうだな。祝ってもらえなくていいのかもしれない。でも、一緒にいて幸せなのがいつまで続くかもわからないから」  和哉はギュッと拳を握る。 「人だってそうだ。わかんないけど、今そばにいたいから付き合ってる。今の気持ちは無視したままでいいのか?」   わからない。無視したら良くないのか、そうじゃないのか。 「俺は同僚のあいつら、殺したいほど嫌いだよ。でも仕事が好きで、あの仕事じゃないとダメだと思うから続けてる」 「あんなにいじめられても?」 「あぁ。自殺をしない理由になる。お前も、そいつと会うことが飢えても人殺しも自殺もしない理由になってるんじゃないのか?」  一筋の涙が頬を伝う。 「悪魔とこんな正面から話して、その考えでいいのかって聞く人間なんて、なかなかいないぞ」 「飢えて人に食べ物を買ってこいという悪魔も、なかなかいないんじゃないか?」   確かに。 「ハハ、ハハハ。やっぱりお前変わってる」  涙を拭いながら笑う。和哉のいう通りだ。自分はきっと選択を誤った。 「お前にだけはいわれたくない」  不満そうに顔をしかめる和哉を見て、天馬はまた笑った。

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