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第1話 いつか家族になってくれる人(5)
「うん。これでもいろんな人に訊きまわって、やっと居場所がわかってさ。ほんっと、地元離れてなくてよかったよ」
はあ、と湊が息をつく。
その横で、春陽は小さく目を見開いた。
(訊きまわってた、って。まさか、颯太くんママが言ってたのって!)
教えられた特徴、湊が口にした言葉。すべてに合点がいく。
春陽は頭を抱える思いだったが、相手の眼差しがあまりに真摯で、何も言うことができなかった。
少しの逡巡のあと、おずおずと理由を尋ねる。
「なんでまた、俺のことを?」
湊は一瞬だけ悲しげな表情になった。けれどすぐに顔を引き締め、真っ直ぐにこちらを見つめ返す。
「……まず、謝らせてください」
声のトーンを落として、湊が頭を下げた。
「兄のこと、本当に申し訳ありませんでした」
二人の間を風が吹き抜け、静寂が訪れる。
しばし言葉を失っていたものの、ややあって春陽はゆっくりと首を横に振った。
「頭上げてよ。君が謝ることじゃないでしょ?」
「っ、でも! 俺が謝ったって何も変わらないけど――どうしても、何か言いたくて!」
きつく拳を握り、湊が声を張り上げる。
その姿はひどく悲痛で、春陽はそっと寄り添おうとした――のだが、
「俺、知らなかったから。春陽さんと兄さんの間に……子供がいたってこと」
思わず、身体が固まった。
湊はまるで懺悔でもするかのように続ける。
「二人のことは、なんとなくわかってた。でも、その頃は俺もまだ子供で……まさか春陽さんが妊娠するなんて、思いもしなかった。兄さんも兄さんで、責任もとらずに隠してたなんてっ」
言って、湊は静かに頭を起こした。そこには深い後悔が滲んでいるようだった。
「子供のことを知ったのは、本当に最近なんだ。親が、通話越しに兄さんから聞いたって――そういう相手がいたんだと。春陽さんの名前も聞いて……それで、どうしてもあなたに会いたくなった」
「湊くん……」
「正直もう、頭の中ぐちゃぐちゃ。兄さんへの怒りとか、春陽さんに何もできなかった自分への後悔とか……それでも俺、会ってちゃんと話したかったんだ」
あの頃の面影を残したまま、どこまでも真っ直ぐに思いをぶつけてくる湊。
春陽はそんな彼から、目が離せなくなっていた。
「どうしてそこまで……俺なんかのために」
ぽつり、と独り言のように呟く。
兄弟が関わっているとはいえ、そこまで気に病む必要などないのに。わざわざ人づてに探し出してまで、会いに来るだなんて。
それも、自分なんか――。
「『なんか』じゃない」
視線を落としたそのとき、強い声音が響いた。
「さっき言わなかった? 俺にとって大切な人だ、って」
「………………」
顔を上げれば、澄んだ黒目がちの瞳とかちあう。
一瞬だけ目を逸らされたかと思えば、すぐにまた戻された。湊の喉が微かに上下し、唇が躊躇うように開き――そして、
「春陽さんが好きなんだ……前から、ずっと」
その言葉は、胸の奥から搾り出すようにして告げられた。
再び、ほんの数秒の沈黙が訪れる。春陽は大きく目を見開いていたが、やがて見つめ合っていることに耐えられなくなった。
「そう、だったんだ。あ……ありがとう、湊くん」
パッと視線を落とす。
どうにも落ち着かぬ心地だ。小さく深呼吸したのちに、春陽はようやく言葉を続ける。
「こんなこと言うと恥ずかしいんだけど――俺も、同じ気持ちだよ」
すると、湊が目を丸くして、口をパクパクとさせているのが横目に映った。
「えっ! ほ、本当に!?」
春陽はどぎまぎしながら、こくんと頷き、
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