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第2話 トラブルDAY(5)

「っ、こっち!」 「え……」 「いいから、ついてきてっ」  湊はすぐに動いた。  頭に巻いていたバンダナを手早く外し、店内へと春陽を誘導する。 「すみません、店長! 社用車貸してください!」  カウンターの奥にいた、店長らしき男が目を丸くした。 「おいおい、いきなり何を――」 「お願いします、緊急なんです! ちゃんとガソリン満タンにして返しますから!」  一気にまくし立てる湊。  店長はこちらを見て察しがついたのだろう。少しの逡巡ののちに、キーを投げるように寄こしてきた。 「働かなかったぶんの給料は、差し引くからな! くれぐれも事故るんじゃねえぞ!」 「はいっ、ありがとうございます!」  キーを片手で受け取って、湊が向き直る。  春陽は案内されるがままに、店の裏口へ回った。鉄扉の先には小さな駐車スペースがあり、シルバーの軽バンが停められている。 「乗って! すぐ出す!」  湊が素早く運転席のドアを開ける。春陽も頷いて、優を抱いたまま助手席へと乗り込んだ。 「春陽さん、病院の案内だけ頼める?」 「う、うん。……ごめん、湊くん……その」 「話はあと。大丈夫だから落ち着いて」 「……ありがと」  気遣わしげな声を受け、やっとのことで息ができた気がした。  車のエンジンが静かにかかり、ヘッドライトの白い光が夜道に伸びる。  急ぎながらも丁寧にハンドルを切る湊の横顔は、妙に大人びて見えた。  ――そして、数十分後。 「便秘ですね」  診察室に響いた医師の声に、春陽は耳を疑った。 「べっ、便秘……ですか?」  春陽がきょとんとした表情を浮かべると、医師は苦笑まじりに頷く。 「圧迫感と痛みで、つらかったんでしょうね。排便頻度も問題ないようですし、便秘症まではいかないので安心してください」 「はあ……」 「水分と食物繊維の摂取、意識してあげること。症状が気になるようであれば、お薬を出しますよ」 「あっ、はい……お願いします」  そうこう会話をしているうちにも、処置を終えた優が、看護師に手を引かれて出てきた。先ほどまで苦しんでいたのが嘘のように、けろりとした顔をしている。 「優っ!」  すぐに春陽は駆け寄って、優の身体をぎゅっと抱きしめた。 「お腹痛いの、もう大丈夫?」 「うん……」 「ああ、よかったあ。痛いの、嫌だったね……よく頑張ったねっ」  なんだかもう、床にへたり込んでしまいそうな勢いだ。なんてことはない結果で、泣きたくなるほど安心した。  春陽は医師らに頭を下げると、優を連れて待合室へと戻る。そこには湊が待ってくれていて、こちらに気づくなり、勢いよくパッと立ち上がった。 「春陽さん!」 「大丈夫、便秘だったって。処置もしてもらったから、もう平気」 「……っ、よかったあ~」  湊は大きく息を吐き、脱力したようにしゃがみ込んだ。それから、優に目線を合わせて話しかける。 「えっと、優くん? お腹、治ってよかったね」 「………………」  優は少しだけ視線を持ち上げて、湊の顔を見つめた。けれど、すぐに目を伏せてしまう。 「あれ? まだ元気ない?」  首をかしげる湊に、春陽も目を瞬いた。  その様子は人見知りをしている、といったふうでもない。春陽が問いかけようとしたときだった。 「パパに、『ごめんなさい』しなきゃって」  思わぬ言葉が飛び出して、春陽は「えっ?」と訊き返す。

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