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第2話 トラブルDAY(6)

「優? どうして『ごめんなさい』なの?」  言いつつ、膝を折って目を合わせようとする。 「だって、きょうのパパ……ずーっと、がっかりしてばっかだった……だから、ゆう――きらわれちゃったかなって」 「――……」  春陽はぐっと息を詰めた。  優は見ていたのだ。心の奥に隠した不安や焦り、小さな綻びの数々を。  そして、それらを強く感じ取ってしまったゆえに、失望して嫌われてしまったのではないかと怯えている――。  そう思い至った途端、春陽はもう堪らない気持ちになった。 「優、そんなわけないよ。パパが優を嫌いになるわけ、絶対にない」  優の肩に手を置き、否定の言葉を繰り返す。  それでもまだ足りない気がして、さらに言葉を重ねた。 「パパも、そんなふうに思わせちゃってごめんね」 「パパ?」 「パパはね……優が悲しかったり、つらかったりしてるのに、上手く助けてあげられないのが嫌だったんだ。――そう思うのは全部、優のことが大切で、大好きだからだよ」  一つ、また一つ。正直な気持ちが伝わるよう、言葉を選びながら伝えていく。  優はしばらく黙っていたが、やがて「……ほんと?」と聞き返してきた。春陽はしっかりと答えてみせる。 「ほんとに、ほんとだよ。パパはどんな優でも、いつだって大好きだよ」 「っ、パパあ……」  頷く春陽の胸に、小さな手がぎゅっとしがみついた。  優はそのまま顔を埋め、しくしくと泣き出す。涙で服がじんわりと濡れていくのを感じながら、春陽は優の背中を優しく撫でてやった。 「パパの気持ち、たくさん考えてくれてありがと。……大好き。だーいすきだよ、優」  震えそうになる声をなんとか押さえ込んで、緩やかに目を閉じる。  ――どれほど余裕がなくても。どれほど自分が不安定でも。  優の前でだけは、何が何でも父親らしい顔をしていようと決めていた。      診察を終えた帰り道。  湊が運転するミニバンの助手席で、春陽は優を胸に抱いていた。病院を出た直後、安心したのか、優はあっという間に眠ってしまったのだ。  しかし、春陽の胸にあるのは安堵だけではなかった。やり場のない後悔や、自責の念が渦を巻いていた。 (優にあんなこと言わせちゃうなんて……。これじゃあ結局、『子供そっちのけで男漁りしてる』って言われても、仕方ないじゃん)  力不足で情けなくて、自分のことを責め立てる声が次々と湧いてくる。  もっと、親としてしっかりしていれば。もっと、子供のことを気遣っていれば――。  そんなことばかり考えて、息が詰まりそうになる。 「春陽さん。このアパートでいいの?」  湊の声に、ハッと我に返った。  もう自宅の前まで来ていたようだ。ぼんやりとした輪郭に、今の今まで気づかなかった。 「あっ、うん。ごめんね……本当にありがとう、湊くん」  慌てて答えたが、ふっと湊の顔が曇る。 「春陽さん……泣いてる?」 「え……?」  言われて、ようやく自分が泣いていたことに気づく。春陽は涙を袖で拭いながら、弱々しく謝った。 「ごめんっ……大人のくせに、みっともなくて」 「みっともなくなんか、ないよ。どうしたの?」 「っ……な、なんか、いろいろ考えちゃって。俺、親としてどうなんだろう、とかって……」  静かに車が停まり、エンジンが切られる。  湊はポケットからハンカチを取り出すと、春陽の方へ身を乗り出してきた。そっと涙を拭ってくる。 「鼻はいいよ……ハンカチ汚れちゃう」 「いいから」  優しげな手つきに、何も言えなくなった。  湊はこちらの顔を真っ直ぐに見つめ、再び口を開く。 「俺は、春陽さんが『ちゃんとパパやってるんだなあ』って、今日すごく思ったよ」

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