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小ネタ 好きの意味(第2.5話)
休日の昼下がり。
街角にあるラーメン屋の店内は、ちょうど昼のピークを終え、穏やかな時間帯に突入していた。
「はい、お待たせしました。ラーメン大盛り、取り分け用の小どんぶりもどうぞ」
アルバイト中の湊は、座敷席にラーメンと小どんぶりを並べる。
テーブルの向かい側、微笑んでこちらを見上げてくるのは春陽だ。
もちろんのこと、その傍らでは優が「らーめん! らーめん!」とはしゃいでいる。
「ありがとう。気遣ってもらっちゃってごめんね」
「こんなの、気遣いのうちに入らないよ。今の時間帯ってあんまお客さん来ないし、気にせずゆっくりしてって?」
「うん。じゃあ、いただきます」
春陽の言葉に、湊は一礼して座敷席を離れた。厨房へ戻ると、店長がひそひそと話しかけてくる。
「いやー、べっぴんな兄ちゃんだなあ。ありゃ見るからにオメガ……」
「それ、セクハラですよ?」
湊は即座に言葉を遮った。少しムッとして、店長の顔を見据える。
「お、おっと。悪かったな」
何か感じるものがあったのか、店長は思いきりたじろいでみせた。
うやむやにする勢いで、即座に話の方向を変えようとする。
「にしてもお前さん、やけにデレデレしてたよなあ。もしかして〝これ〟か?」
ピンと小指を立てる店長。
湊は意味がわからず、きょとんとした。
「?」
「いや、通じねえのかよ。つまりよ、お前さんの〝いい人〟かってハナシだ」
「あー、そういう……」
湊は思わず、ため息をついた。
ちょっと切ない気持ちで、視線を座敷席の方へと投げる。
「告白はしたんですけどね。上手く伝わってないみたいで」
「まあ、男同士だもんなあ」
「それ以前の問題かもしれません。なんていうか、弟扱いされてるんですよね」
店長は腕を組み、ふむ……と唸ったかと思えば、今度はパチンッと指を鳴らした。
「だったらアレだ。この前、ドラマでやってたヤツ!」
「はい?」
「ぶちゅ、ってしちまえばいいんだよ! そんで、『俺の〝好き〟って、こういうことだから……』ってな! どうだ!?」
妙案とばかりに言ってのける店長に対して、湊は盛大にため息をついた。
これで二回目。ついでに項垂れてしまう。
「店長。それ多分、フィクションだから許されるやつです。実際にやったらアウトですよ――失敗したら、一生立ち直れない自信あります……」
「……よっぽどホの字なんだなあ、お前さん」
どことなくジェネレーションギャップを感じながらも、言いたいことはわかる。
あらためて目をやれば、ラーメンを啜っていた春陽が、ふと髪の毛を耳へとかけていた。
それがやけに色っぽくて、湊はつい見惚れてしまう。
――と、そんなことをしていたら、横からごつんと肘が入ってきた。
「こーら。わかりやすすぎだ、っちゅーの」
「っ!」
湊はぷいと顔を逸らす。それでも、視界の端にはずっと春陽の姿があった。
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