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小ネタ GW、どこ行く?(第3.5話)
――いいね。どこ行こっか?
茜色に染まった空の下、並んで歩く帰路。
こちらの返事に、湊が表情を明るくさせたのがわかった。
「春陽さんは、どこか行きたい場所ある?」
「うーん、そうだなあ……。優が楽しめそうなところがいいかな」
そう答えた矢先、思わぬ言葉が発せられる。
「……きりん、しゃん」
背中から聞こえてきた、優の寝言。
不意打ちを受けた二人は目を合わせ、同時にクスッと笑った。夕焼けに照らされた顔が、やけに眩しく映る。
「動物園で決まり、かな?」
「多分ね。あとで本人に確認してみるよ」
なんてことのないやり取りなのに、不思議と胸があたたかくなるようだった。
優が思い描いている夢を、一緒に叶えてあげたい――などと、ついつい考えてしまう。
そうして会話を交わすうち、やがて春陽のアパートが見えてきた。
玄関ドアを開けると、優を下ろしたのち、湊が持ってくれていたバッグを受け取ろうとする。
「ありがと――」
と、そのとき。不意に指先が重なった。
わずかな触れ合い。けれど、反射的に心臓が跳ねてしまう。
「………………」
視線を上げれば、湊もまた息を呑んだように固まっていた。
何事もなかったかのように手を離すものの、ぎこちなさを感じてならない。
「っ、ごめん」
小さく謝る湊に、春陽は首を振って「ううん、こっちこそ」と笑ってみせる。
それから別れの会話もそこそこに、解散することにした。
「じゃあ、また連絡するから」
「うん。気をつけて帰ってね」
そう告げて手を振り、玄関を閉める。
けれど――指先に残る感触が、どうしても消えてくれない。
握った手をそっと胸元に寄せると、そこから熱が広がっていくようだった。
(どうして……こんなふうになってるんだろ……)
自分でもわからない。
……ただ、胸がドキドキとするような余韻に、しばらく動けずにいた。
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