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第4話 きっと思い出になる一日(2)

「パパと一緒に、写真撮りたい人ーっ?」 「はーい!」  抱っこしていた優の身体を下ろすと、あらためて湊はこちらに目を向けてくる。  春陽はスマートフォンを渡しかけて、ふと手を止めた。 「あ、待って。……湊くんって、自撮りとかできる?」 「自撮り? まあ、それなりには」  湊が目を丸くする。  かたや春陽は、微妙に視線を逸らしながら言った。 「今日は湊くんもいるんだから、三人一緒がいいな……って。優もその方がいいよねっ?」 「うん! みーくんもいっしょがいいっ」  優がぱたぱたと駆け寄って、湊の足に抱きつく。 「ということなので」とばかりに春陽がスマートフォンを渡すと、湊はクスッと笑みをこぼした。 「わかった。じゃあ、三人で撮ろっか?」  湊がスマートフォンを構えて、インカメラを起動させる。  その一方で春陽は優を抱っこし、そっと湊の方に身を寄せた。……意識せずとも、肩と肩が自然と触れ合ってしまう。 「撮るよー?」  どぎまぎしているうちにも、三人が画面に収まったところで、すぐにシャッターが切られた。 「よし、いい感じかも!」 「見せて――ほんとだ! 湊くん、上手っ」  写真を確認すれば、全員の笑顔がしっかりと映っていた。  春陽はつい感慨深げに見入ってしまう。自分と優が写っているのはもちろん、湊も一緒に写っているのが、なおさら嬉しく思えてならなかった。 「だけど、さすがにキリンは入らなかったね?」 「あっ」  言われて気がつく。  背後にそびえ立つキリンは、あまりにも大きすぎて、残念ながら画角には入っていなかった。 「ははっ、俺もそこまで手伸びないや。誰かにお願いしよっか?」  湊の笑顔につられて、春陽もまた微笑みを浮かべてみせた。 「だね……!」  その後も三人は、賑やかに園内をあちこち巡っていった。  キリンがいたアフリカエリアを抜けて、猛獣エリアに鳥類エリア。昆虫や爬虫類の展示コーナーも見て回った。  昼時には動物を模した可愛らしいランチプレートを食べ、優に付き合ってソフトクリームも半分こした。  そうして、午後の柔らかな陽射しの下。三人が最後に立ち寄ったのは、園の一角にある「ふれあいコーナー」だった。  ブースの中にはモルモットやウサギなどの姿があって、子供たちの明るい声がいたるところから聞こえてくる。  係員の指導を受け、優の膝にモルモットを乗せてもらうと、恐る恐る小さな手が添えらえた。 「優しく撫でてあげてね」  係員に促され、優はおっかなびっくりといった様子でモルモットの身体を撫でる。次第に、その手つきが柔らかくなっていくのがわかった。 「ふわああ~、かあいいっ!」  うっとりとした表情でモルモットを愛でる優。  呼吸に合わせて微かに上下する身体の動きが、命の重みをそっと教えてくれているようだった。  か弱いながらに、ちゃんと〝生きている〟という確かな存在感。自分よりも小さな命を慈しむ姿といったら、見ているこちらの胸まで、じんわりと温かくなってくる。 (なんだかお兄ちゃんの顔してるや。優も、日に日に成長してるんだなあ)  春陽はしみじみと浸りながら、我が子の様子を見守る。また、傍らでは湊も同じように、温かな眼差しを注いでいた。  互いに気がつくと、何となしにアイコンタクトを交わす――のだが。  そのとき、近くにいた係員が笑顔で声をかけてきた。 「もよかったらどうぞー」 「おと……っ!?」  思いがけない言葉に、湊が過剰なまでに反応した。  誤魔化すように咳払いしつつも、耳がほんのりと赤くなっていて、なんともあからさまな態度だ。

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