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第6話 この熱は君のせい(5)★

「っ、あ……」  何年ぶりかもわからない感覚。全身の血が沸騰しているかのようだった。  春陽は咄嗟に、自分の身体を抱くようにしてうずくまった。 (うそ……まさか、発情期(ヒート)? 抑制剤、ちゃんと飲んだのに……っ!?)  抑制剤が効かないなんてあり得ない。今まで経験してこなかったし、新しく処方された薬で体調も戻っていたというのに。  わけがわからず呆然とするなか、湊が慌てた様子で立ち上がる。そして、こちらへと手を伸ばしてきた。  その拍子にティーカップから紅茶がこぼれてしまったけれど――そんなことはどうでもよかった。  ただわかるのは、触れ合った部分の熱さ。感覚が妙に鋭くなっていて、春陽は敏感に反応してしまう。 「はっ……ぁ、だめっ……いま、触られたら……っ」  発した声は自分でも驚くほど甘く、熱に浮かされていた。  言ったそばから、湊の手にぐっと力がこもったのがわかる。春陽の視界に映ったのは、熱と欲望で満ち溢れた雄の顔だった。  ――理性を失ったアルファの姿。彼の中のアルファ性が、オメガの発情を本能で嗅ぎ取ったのだと、直感で理解した。 「春陽、さん――」  震える声が聞こえたと同時に、身体をきつく抱きしめられる。そのまま、ゆっくりと押し倒される感覚があった。  床に背をつく直前、湊は春陽の頭を支えてくれたものの、余裕なんてものは微塵も感じられない。  開いた瞳孔に、紅潮した頬。喉奥から漏れる熱い吐息……。  衝動のままに組み敷かれてしまえば、どうなるかなんてわかりきっている。しかし春陽は抵抗することもなく、ただ瞳を揺らした。 「……春陽さん、いい匂い……」  湊の鼻先が首元を掠める。くすぐるように擦り付けてきたかと思えば、すうっと深く息を吸い込まれた。  低く湿った声が、再び耳の奥に染み込む。 「なんで、こんな匂いさせてんの……?」  首筋にまとわりつく熱い吐息。形の良い唇が、まるで引き寄せられるかのように近づいてくる。  そこに触れられただけで、もう駄目だった。くらりと強い眩暈がして、これまでに経験したことのない感覚に陥る。 「んっ……ぅ」  ――噛まれたい。噛んでほしい。  奥底で渦巻く欲望は、目前に迫るアルファとの繋がりを求め、やけに甘ったるい声で囁いた。 (だめ……そんなの、絶対だめ……っ)  胸の内の声が、遥か遠くに聞こえる。  なにも本当に噛まれたいわけではない。互いのことを思えば、間違っているとはっきりわかる。  ところが、心と身体は裏腹だった。湊の歯がうなじに触れることを期待しては、浅ましくも奥が濡れてきてしまう。  ――お願いだから、噛んで。  オメガとしての本能に突き動かされるまま、春陽は首を傾けた。  襟足を手で避け、自らうなじを差し出すがごとく。涙さえ滲ませながら。 「湊、くん……」  もはや懇願だった。  掠れるような、か細い声で名前を呼べば、湊がビクッと反応を見せたのがわかった。  そして、熱に灼けた吐息がうなじへとかかる。こちらの肩を抱いた腕に、強い力がかけられ――、

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