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第6.5話 甘くて優しくて、溶ける(2)
一方で、慌てたような声が返ってきた。
「ちょっ、そんなこと言わないでよ! 春陽さんは何も悪くないし――どうしようもないことでしょ、お互いにさっ」
「でも、手まで傷つけさせて……迷惑、かけて」
「ストップ、ストップ! アイス溶けちゃうからっ!」
言葉を遮るように、湊の声が響く。焦りと必死さが滲んだ口ぶりだった。
春陽がきょとんとしているうちにも、湊はトーンを落として話しかけてくる。
「本音を言うと、俺もすっげえ自己嫌悪っていうかさ。『いくら謝っても足りないな』って感じなんだけど、それやったら収拾つかないんで……堪えてます。あれきりにしよう、って」
ぽつりぽつりと、湊は言葉を紡いだ。本当に真っ直ぐな、飾らないありのままの気持ちを。
彼もまた同じくらい苦しんで、悩んで、それでも前を向こうとしてくれている――確かにそう思えた。
「湊くん……」
呼びかけたあとの言葉が、なかなか出てこない。
そのうちにも、湊が笑みを浮かべる気配がした。
「だから、そういうのナシにしようよ。ね?」
最後の「ね?」が、妙に優しく響く。
なんて愛おしいのだろうか。胸の奥がじんわりと熱を帯びて、春陽は今日二度目の感謝を口にすることになった。
「……うん、ありがとう」
ほんの一言しか返せなかったけれど、湊には十分伝わったのかもしれない。
ドアの向こうから、明るい声が返ってくる。
「じゃあ、また欲しいものがあったら言って? 俺、毎日でも来るから!」
そうして足音が遠ざかっていった。
それを確認して、春陽は玄関のドアを開ける。ドアノブには白いビニール袋が掛かっていた。
(わあ、高いアイスだっ。それとこっちは……)
確認すれば、保冷剤付きのバニラアイスが二つ――と、メモ用紙が一枚。
春陽は部屋に戻りながら、メモ用紙を手に取る。
そこには男の子らしい字体で、こう書かれていた。
《お大事に! ちゃんと食べて、寝て、元気になりますように!》
そしてその下には、手紙を咥えた犬……らしきイラストが添えられている。お世辞にも上手とは言えないけれど、なんだか無性に可愛くて、つい笑ってしまう。
「可愛い。わんちゃん、だよね?」
多分……きっと、そう。
春陽はメモ用紙をそっとテーブルに置き、今度はバニラアイスを手にした。
湊のことだから、優のぶんも用意してくれたのだろう。一個は冷蔵庫にしまうと、もう片方はさっそくいただくことにする。
(……おいし)
アイスは少し溶けかけていたけれど、ひんやりとした甘さが舌に広がると、身体の熱がどこか落ち着くようだった。
* To Be Continued *
>>> 第7話「君が追いかけてくれたから」
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