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第7.5話 湊くんは「好き」が止まらない
風呂上がり。
自室のベッドに身を投げ出すと、湊は何をするでもなく、天井を見上げてぼんやりとしていた。
なんだか胸のあたりが、ずっとふわふわとしている気がする。
たった一つ――「あの春陽さんと両想いになった」というだけで、世界がまるごと色を変えてしまったかのようだった。
「春陽さん、今ごろ何してんだろ」
ぽつりと呟いた声が、誰もいない空間に響いた。
――おそらくは、優の寝かしつけが終わった頃合いだろう。仕事か家事、はたまた趣味の時間か?
そんなことを考えながらも、ベッド脇に置いていたスマートフォンを手に取る。何気なしにLINEのトーク画面を開いてみた。
新しいメッセージは来ていない。履歴を適当に読み返しながら、物思いにふける。
そのうちにも、気持ちがムズムズとしてきた。
(うーん。意味もなくメッセージ送るのとかって、ダルい?)
メッセージ入力欄に《起きてる?》と打ったものの消し、《今、何してた?》と打ってはまた消した。
相手は自分よりも年上で、シングルファザーとして忙しい身だとわかっているからこそ、どうにも踏ん切りがつかない。
結局、何も送らないまま画面を閉じた。思い余って、湊は枕に顔を押しつけながら、小さく呻く。
(くそ……好きすぎる)
シャワーで火照った身体が、なおさら熱くなってきた。
夏の夜は、窓を開けても涼しい風が入ってこず、仕方なしにクーラーを点ける。
それから再びスマートフォンを手に取ると、性懲りもなく、今度はカメラロールを開いた。
目に入ったのは――先日、春陽と優と三人で行った動物園の写真。
三人で撮った記念写真はもちろんのこと、ここだけの話、春陽の隠し撮りもいくつか並んでいる。
(可愛い……)
華奢で美人。目元は涼しげで、でも笑ったときは子供みたいにあどけなくて。
どこを切り取っても絵になるのに、実は少し抜けていたり、可愛い物が好きだったり。大人らしい包容力が目立つせいか、知れば知るほどギャップがあって、どこまでも飽きないと思う。
(衝動的だったぶんアレだけど。抱きしめた感触、まだ残ってるなあ)
不意に、湊は動物園での一件を思い出した。
自分よりもずっと小さな身体で、男なのにどこか柔らかくて――そんな、健全男子の想像力はとどまることを知らない。
(キスして、押し倒して……服、脱がせて――)
頭の中に、Yシャツのボタンを一つずつ外していく光景が浮かび上がった。
あの白い肌が徐々に露わになっていくさまを想像するだけで、息が詰まりそうになる。
しなやかな鎖骨。胸元に手を這わせたら、きっと肩がビクッと揺れるんだろう。
柔らかなところをなぞって、口づけて――そしたら、どんな声を出す? どんなふうに求めてくる?
『みなと、くん……』
想像……いや、妄想上の春陽が名前を呼ぶ。
その表情は蕩けきっており、潤んだ瞳から涙がこぼれ落ちそうだった。それでも、顔を真っ赤にさせながら、恥ずかしげに縋ってきて――、
「って、だめだめだめっ!」
思考が一線を越える寸前で、湊は頭を振った。
ベッドの上でのたうち回りながら、枕に顔を押しつける。
「なに考えてんの、俺! 駄目すぎだろ!?」
心臓がバクバクと激しく脈打っていた。
ましてや、男の生理現象というものは顕著で、自分の興奮具合に呆れ返ってしまう。
実のところ、前科はそれなりにあるのだが、以前とは明らかに状況が違うわけで。まだ付き合いたて――ようやく両想いになったばかりで、キスだってしていないのに。
(春陽さんに、こんなこと考えてるって知られたら……絶対、引かれる)
ふと目を横にやれば、まだスマートフォンの画面は消えていなかった。写真の春陽が、何も知らないふうなのが心苦しい。
「嫌われたくねえー……」
しみじみと、胸の内からこぼれた言葉だった。
好きだから触れたくて。でも、好きだからこそ嫌われたくなくて――。
そんなラブソングのフレーズのようなことを考えては、湊は悶々とする一夜を過ごした。
* To Be Continued *
>>> 第8話「恋する二人は××したい」
>>> 小ネタ「わんちゃんじゃないよ(第7.5話)」
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