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第8話 恋する二人は××したい(6)★
(えっ、わ、舌が……)
そう認識すると同時に、熱い舌が歯列を割って口内へ侵入してくる。
反射的に身を引こうとするも、湊が背に腕を回して離さない。それどころか、後頭部をしっかりと支え、深く貪るように口づけてきた。
「ん、んんっ」
必死に声を噛み殺すものの、どうしたって抑えきれない。舌をどこに置いたらいいのかもわからず、ただ湊の舌に翻弄されるばかりだ。
上顎をくすぐられ、舌先を吸われ――柔らかく、絡めとられる。そのたびに、電流のような快感が、背筋をゾクゾクと駆け抜けた。
次第に頭がぼうっとしてきて、何も考えられなくなっていく。
(ぬるぬる……あつくて、きもちい――)
無意識のうちに、春陽は自分からも舌を絡ませていた。
もっと湊に触れたい。その一心で必死に応えていると、相手はより深く口づけてくる。
「はっ……ん、ふ」
くちゅくちゅっ……と唾液の絡まる音が耳に届くたび、恥ずかしくて堪らないのに、身体の奥がどうしようもなく熱くなってしまう。
もう、頭の中まで溶けそうだ。だんだん足に力が入らなくなっていき、気づけば湊に縋りつくように抱きついていた。
「……っ、は」
そうして、どれくらい口づけを交わしていたのだろう。
湊がようやく唇を離してくれたときには、春陽はすっかり蕩けてしまっていた。
唇はじんじんと熱を帯び、糸を引くように濡れている。潤んだ視界の中で見上げると、湊の頬もまた赤らんでいた。
「嫌じゃ、なかった?」
今になって、湊が吐息まじりに問いかけてくる。
春陽は浅い呼吸をはあはあと繰り返し、「うん……」と小さく返した。そして、うっとりと湊の瞳を見つめる。
途端、湊がギクッとした表情になるのがわかった。
「その顔、卑怯でしょ」
「?」
瞬きひとつ。湊の言っている意味がわからず、春陽は小首をかしげた。
湊が気まずそうに眉根を寄せる。
項垂れたかと思いきや――こてん、と湊の頭が春陽の肩へと預けられた。
「……すっげえ、エロい顔してる」
――低い声で、ぽつりと落とされた爆弾発言。
春陽は、顔から火が出るような思いに包まれた。
「なっ、えっ……ええ!?」
真っ赤になった春陽が、しどろもどろになっていると、湊はハッとしたように身体を起こした。
「今日はこれくらいにしとこっか!?」
「は、はいっ!」
条件反射のように返事をしたあとで、どちらからともなくササッと距離を置く。
春陽は大きく息を吐いた。それでも、一度昂ってしまった身体の熱は、なかなか引きそうにない。
(ううっ、『若い』とか人のこと言えない!)
湊に背を向けると、春陽は顔を覆って小さく呻いた。
あんなふうに、我を忘れて夢中になって――それも、いやらしく自分から舌を絡めるだなんて。
思い出すだけで心臓が暴れて、穴があったら入りたい気分だった。
(キスだけでもこんななのに、この先どうなっちゃうんだろ)
指の隙間から、ちらりと後ろを見やる。
すると、ちょうど視線の先で、湊もこちらを見ていた。目が合った瞬間、二人してばつが悪そうに小さく笑う。
……気まずい。でも、なんだか愛おしい。
こんなふうにドキドキしながら、少しずつ二人の時間を重ねていきたい――と、そう思えた夜だった。
* To Be Continued *
>>> 第8.5話「男はこうして頑張るものです」
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