60 / 78

小ネタ 魅惑の赤ちゃんプレイ(第8.5話)★

 午後の陽射しが強くなるころ。湊は野田とともに、キャンパス内のカフェテラスで涼んでいた。  冷たい飲み物を手にしながら、他愛ない会話をしていたのだが、 「ああ、オギャりてえ~」  脈絡もなく、野田がストローを噛みながら呟いた。 「え?」 「この前、彼女に言ったらドン引きされたんだよなあ」 「へー、そうなんだ……」  聞き間違いかと思ったが、野田は真顔で続ける。  湊は短く相槌を打ちながらも、内心では「そりゃそうだろう」と彼女に同情した。 「くっそー、彼女に甘やかされるとか最高じゃね!? ガチで赤ちゃんプレイとかしてえわ!」 「んーまあ、甘やかされるのもいいと思うけど。俺はどちらかと言えば、甘やかしたい派かな」 「ええーマジかよ?」  言葉を濁したのは、後が面倒になりそうだからだ。ただ、「恋人に甘えたい」という点に関してはわからないでもない。  野田の思考はやや行き過ぎな気もするが――いや、春陽だったら。 「………………」  ……気づけば、湊はありもしない光景を思い描いてしまっていた。 『よしよし、いい子いい子。湊くんはいい子だね♡』  脳裏に浮かぶのは、母性を感じさせる春陽の微笑み。  頭を撫でてくる仕草があまりにも自然で、湊の胸がじんわりと熱を帯びていく。  野田の言葉に感化されてしまったのか、妄想はそのまま膨らんでいった。 『うん? お腹空いちゃった?』  春陽は小首をかしげると、頬を赤く染めながら、そっとYシャツのボタンに指を添える。 『じゃあ……ママのおっぱい、飲む?』  乱れていく襟元、のぞく白い鎖骨。そして、じゅわ……っと濡れた桃色の突起。  ほのかに甘い匂いが鼻腔をくすぐる。潤んだ瞳で見つめられれば、それだけで息が詰まりそうだった。 『いっぱい飲んでいいからね? ほら、ちゅーちゅーして……♡』  囁くような声音にドキリとする。  いったいどのような味がするのだろう。欲望のままに吸えば、きっと身も心も満たされるに違いない。  春陽はこちらの頭を抱いたまま、自ら胸を寄せてくる――唇が触れそうなほど近づいたところで、 「いやいやいや……やめて、やめて、ガチでやめて。変な方向に目覚めちゃいそうだから、本当にやめて……っ」  湊は両手で顔を覆い、椅子ごと大きく仰け反った。  一方、野田はきょとんとした表情を浮かべる。 「えっ、なに? イケる? そーゆーの案外イケるクチだった!?」 「……野田と一緒にすんな。そもそも解釈違いだし」 「はああっ!?」  湊は必死になって、真っ赤になった顔を隠した。  そして胸の内で、春陽に「ごめんなさい」と繰り返し謝る。  この妄想を本人に知られたら、間違いなく死にたくなるに違いない。  ……というか、死ぬ。死んでもいい。

ともだちにシェアしよう!