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最終話 夢という名の未来(7)

「……湊くんはすごいね。初めて会ったときは俺よりも小さくて、まだ子供だったのに」 「またそういうこと言う。そりゃあ自分でも、『おままごと』みたいなこと考えてる自覚はあるけどさあ」  言葉のどこをどう切り取ったのか、湊が唇を尖らせる。  でも、春陽のなかでこういった感想が出てしまうあたり、過去としての湊の割合が依然として大きいのかもしれない。 「まあ、確かにちょっと可愛いなとは思ったかな? だけど――」  素直に言ってしまうと、それも本音ではある。が、すぐに真面目なトーンで続けた。 「ちゃんと伝わったよ、湊くんの真剣な気持ち。……すごく、あったかかった。俺も、そんな未来があったらいいなって思えた」  湊は何も言わなかった。  ただ、春陽の手の上に、大きな手をふわりと重ねる。あたたかな温度が、言葉以上にものを語っているように思えた。  優しげな重なりに、春陽は指を絡めるようにして応える。それから、しばしの静寂ののちに口を開いた。 「ねえ、ちょっとだけ真面目な話してもいい?」  思ったより小さな声になってしまったが、湊の耳にはしっかりと届いたようだ。わずかに目を見開き、静かに頷いてみせる。  春陽は後押しされるようにして呟いた。 「……あのね。これから一緒に過ごしていくうえで、好きなところだけじゃなくて、嫌なところもきっと出てくると思うんだ」  春陽の視線が自然と落ちる。正直に打ち明けてしまうのは、少しだけ怖かった。  誰かとともに生きていくということは、決して綺麗ごとだけでは済まない。  すれ違ったり、噛み合わなかったり。それで傷ついたり、苛立ったり……。  そういった経験は、避けては通れないだろう。けれど――、 「でもお互いに尊重して、すり合わせて。それぞれに足りないものを、補っていけたらいいなって。そうやって少しずつ――〝家族〟になっていけたら、すごく……すごく嬉しい」  言葉にすることで、曖昧だったものが、はっきりとした輪郭をもって形作られる気がした。  春陽は、おもむろに湊の方へと目を向ける。  湊は目を細めて、こちらの言葉を一つ残らず聞いていたようだった。  そこにあるのは、何の迷いもない、真っ直ぐな眼差し。真剣な想いだけが宿っていた。 「うん。きっと――なれるよ」  湊の顔が近づいてきて、至近距離で囁かれる。  春陽は目を伏せるように、ゆっくりと瞼を閉じた。唇を重ねられるのだと、直感的に思ったのだが、 「――……」  ……額に、柔らかな感触が落とされる。  静かに目を開ければ、湊がいたずらっぽくも優しげに笑っていた。その表情に、春陽もすかさず笑みを返す。  会話を交わすこともなく、ただ笑い合って、見つめ合って。  そして次の瞬間には、どちらからともなく顔を寄せていた。  唇と、唇が――互いの気持ちが、触れ合っていく。  言葉のいらない夜。静けさに溶け込むかのように、二人はそっと一つになった。

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