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エピローグ いつか番になる、そのときまで(3)
春陽は、自分のうなじへと手を伸ばす。まだじんわりと熱を持ったその場所を、両手で確かめるように柔らかく包み込んだ。
「――……」
アルファがオメガのうなじを噛むことで成立する、番 と呼ばれる絆。生涯にわたって解消できない特別な繋がり。
ちょうど絵本に描かれていた、二羽のオシドリの姿が脳裏に蘇った。
あたたかい世界の中で互いに助け合い、身を寄せ合って卵を温める二羽の番は、とても仲睦まじく幸せそうで。
きっと、これからの自分たちも。一生に一度きりの、かけがえのない絆とともに――。
「はい……っ、喜んで」
胸に満ちる想いを、ありのままに伝えた。
ただ、嬉しくて仕方がなかった。今こうして、こんなにも想ってくれている相手と、生涯の約束を誓い合えていることが、心の底から嬉しい。
まるで大切な宝物のように、湊がつけてくれた痕を撫でながら、春陽はクスクスと笑った。
「ふふっ、嬉しいな。番の先約されちゃった」
心のままに呟けば、湊が「あらためて言われると、恥ずっ……」と言って、軽く身じろぐ。
「テンション上がって、変なこと口走ったかも」
「そんなことないって。俺、すっごく嬉しかったよ?」
うなじに添えた手を外すと、春陽は湊の肩にぽすんと頭を預けた。抑えきれない喜びが、自然と言葉を紡がせる。
「消えちゃうのが、ちょっと勿体ないくらい。……代わりにチョーカーでもしておこうかな、〝先約済み〟ってことでさ」
何気なしに言ったつもりだったが、すかさず湊が反応を見せた。
「だったらそれ、俺がプレゼントしたい」
湊は少しだけ身を乗り出して、春陽の顔を覗き込んでくる。まさに真剣そのものといった感じで、まじまじと。
「いいの?」
「もちろん。春陽さんのこと、ちゃんと考えて選ぶから」
そんなことを言われたら、また嬉しさがじわじわと込み上げてきてしまう。
大好きな人が、自分のために何かを選んでくれる――それも真剣に。肌身離さず、身に着けるようなものを。
……そう考えたら、なんだかもう堪らなくなった。
しばらくの沈黙のあと、春陽は小さく笑みをこぼす。
「なんだか婚約指輪みたいだね?」
「俺も思った」
二人して顔を見合わせると、どちらからともなく笑い合った。
自然と重なった手と手。そこからは確かな温もりが伝わってくる。
まだ番じゃない、始まったばかりのアルファとオメガの二人。
それでも、信じたいと思った。
――この大きな手のひらが導いてくれる、あたたかな未来を。
* To Be Continued *
>>> 番外編「巣作りオメガと初夜♡」
>>> 小ネタ「パパの呼び方って…」
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