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番外編 巣作りオメガと初夜♡(5)★

「春陽さん、可愛い……大好き。俺以外の前じゃ、チョーカー外しちゃ駄目だよ?」  湊が低く、熱を含んだ声で囁く。  かたや春陽は首をすくめるようにして、もぞもぞと振り返った。 「そんなっ、しないぃ……ここは、も……みなとくんの、ものだもん……っ」  必死になって訴えれば、湊は面食らったような顔をした。  吹き出すようにして軽く笑ったのち、額をこつんと合わせてくる。 「うんっ――」  そうして満面の笑みとともに、優しく口づけられた。  愛おしさを噛みしめるように、何度も、何度も。  その後も互いの欲望のままに愛し合い、求め、身も心もほどけていくのを感じたのだった。     ◇  行為が終わった頃には、もう夜が明けかけていた。  汗や体液でどろどろになった身体を洗い流し、二人は身を寄せ合って浴槽につかる。春陽は湊の胸にもたれかかって、ぼうっとしていた。 「一緒にお風呂入るのって、なんか恥ずかしい……」 「なに言ってるの? さっきまで、もっと恥ずかしいことしてたでしょ?」  春陽の身体を抱きしめたまま、湊がクスッと笑う。  無論、春陽はかあっと赤くなって、湯の中に顔を半分沈めた。 (う……すごかった。湊くんってば、結構激しいんだ……)  湊に抱かれた感覚が、名残として身体中に残っていた。  というか鮮明すぎる記憶に、恥ずかしくて目も合わせられないレベルだ。発情期(ヒート)がどうこう以前に、胸がドキドキとしてなかなか収まりがつかない。 「身体、大丈夫? ちょっと無理させちゃったよね」  なにか思うところがあったのか、不意に湊が声をかけてきた。春陽は慌てて否定する。 「えっ、そんな全然! むしろ、まだっ――」 「まだ?」  ――しまった、うっかり余計なことまで。  湊の目がすうっと細められる。微かな気配を感じ取っただけで、春陽の心臓が跳ねた。 「い、今のはっ……発情期(ヒート)だから、その!」 「ああ、そっか。一週間続くんだもんね?」 「………………」  本当はそれだけではない気がしたが、ひとまず頷いておく。  湊は身体を密着させたまま、ふっと息をついた。 「じゃあ、今日も大学の講義が終わるまで待ってられる?」 「え?」  ぽかんと顔を上げた春陽に、湊が微笑みかける。 「なにその意外そうな顔。発情期(ヒート)が終わるまでの一週間、俺がお世話するに決まってるでしょ」  涼しい顔で言ってのけるなり、指先が春陽の肌をなぞってきた。大胆なことにも、するすると下肢の方へと移動していく。 「ちょっ、え!? それって、え……エッチなお世話なの!?」 「ん? もちろん家事だってするよ。炊事、洗濯、掃除、何から何まで任せて?」  いたずらっぽく微笑む湊が、いやらしい手つきで太腿を撫でてくる。 「まずは朝ご飯だよねえ。――春陽さんは、何食べたい?」 「!」  太腿を撫でる指が、ゆっくりと内腿へと移動した。  触れるか、触れないか。そんな際どいところをくすぐられるだけで、背筋がぞくぞくとしてしまう。  そんななか、春陽は小さく唇を動かした。 「と、トーストが……いい」 「うん、トーストだけ?」 「ぅ……目玉焼きも、たべたい……かも」  なんでもないように答えるだけで精一杯だった。  ――これも、いたずらの一つなのだろうか。  そうこう考えているうちにも、緩やかに動かされる指先が、じわりじわりと熱を集めていく。春陽は堪らない気持ちになって、ついに音を上げた。 「湊くん、も……それ以上はっ」 「だって、春陽さんが物足りなさそうにしてるから」 「っ! こ、こんな湊くん、知らない!」  思わずそう漏らすと、湊の顔が綻んだ。まさに、いたずらが成功した子供のように。  楽しげな笑みがこぼれ、こちらを見つめる瞳には、どこまでも愛しさが満ち溢れている。 「だったら、知ってってよ。これからゆっくりと……ね?」  囁くように言いながら、湊は春陽の額に口づけを落とす。  いつの間にやら、湯の中で絡められた手。その一方で、肌の上を滑る指先はとどまることを知らない。  熱を帯びた甘ったるい雰囲気にくらくらとするようで、春陽は気恥ずかしげに目を伏せた。 「もう。湊くんのばか」  不貞腐れたように言いながらも、やはり声には甘さが滲んでしまう。  かたや湊はますます嬉しそうに笑って、再び柔らかく口づけてきた。  言葉を交わすたび、触れるたびに、きっとまだ知らない一面が顔を出す。  この先どれだけ、知らなかった湊のことを知っていくんだろう。そう思うとまた、春陽の胸が高鳴った。

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