3 / 6

第3話〜傍観者【翠】〜

「あ〜あ……こりゃ、めんどくさいやつ始まったな」 配信のアーカイブを見返しながら 翠は缶コーヒーをぷしっと開ける。 陽太が 「大丈夫、そんなんしなくても好きだから」 って、まっすぐな顔で言ったあの瞬間。 隣の蒼都の空気が 音もなく変わったのを 翠はちゃんと見ていた。 「……あれで気づかないとか、逆にすごい」 無邪気なタレ目好きの年下男子。 自覚のない破壊力。 そして、そんな陽太に しっかり色気と欲望を感じてしまってる 蒼都の複雑な表情。 なんかもう、見てるこっちがソワソワする。 「蒼都さ〜、あんた割とバレてるからね?」 思わず口に出して苦笑する。 言わないけど。 言わないけどね。 だってそれを言ったら、多分蒼都はすごく焦るし 陽太は 「えっ?なんかした?」 ってキョトンとするだけで そしてまた蒼都は勝手に胸の奥を締めつけられて ひとりで葛藤しはじめるんでしょ。 「ま、なんとかなるでしょ。知らんけど」 そう言いながら、翠はスマホをポケットに戻す。 好きって ただそれだけじゃ片付かないんだなって思う。 相手がまっすぐすぎると 自分の気持ちをどこに置いていいか 分かんなくなるのかもね。 けど、それでも―― 陽太は蒼都を大事にしてるし 蒼都も陽太を手放す気なんてない。 だったら、ちょっとやそっとのすれ違いくらい 笑って見てればいい。 「あ〜……青春だなぁ。いいなぁ、そういうの」 ほんの少し羨ましくて でも絶対あの混沌に巻き込まれるのは ゴメンだって思いながら 翠はまた彼らのやりとりを思い出して くすっと笑った。 このまま焦れて ぶつかって、泣きそうな顔して、 でも最後にはお互いしかいないって気づいて 気づいた時にはもう 離れられなくなってればいい。 「……ってか、それ全部配信でやってくんない?数字取れそうなんだけど」 なんて、冗談めかした独り言と共に 翠はソファに背を預けた。 今日もまた、二人がどんな顔を見せてくれるのか――楽しみで仕方なかった。

ともだちにシェアしよう!