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第4話〜陽太の夢〜
※微エロ描写あります
スタジオの片付け音が完全に遠ざかり、照明はほとんど消えていた。
残るのはモニターの微かな光と、夜の静寂だけ。
その中で、陽太は蒼都の肩に頭を乗せ
うとうとと浅い夢の縁を漂っていた。
しかし、腰先にほんのり感じた違和感に
くすぐったさを覚えて目がうっすら開く。
視線の先には、蒼都の潤んだ瞳
細めたまなざしが
陽太を射抜きそうで――
寝ぼけた陽太の思考でも
その視線がなぜか胸を締めつける。
そのまま鼓動だけが響く静寂の中で
蒼都はゆっくりと距離を詰めた。
指先が
陽太の腰の細いシルエットをそっとなぞる。
布越しに伝わる熱と
微かな感覚のざらつきに
身体は意識を取り戻した。
「んっ…兄ぃ…?」
戸惑いながら
小さな声とともに、声は甘く震える。
「蒼兄…ぃ…」
その言葉に反応するように
蒼都の目が一瞬暗く光る
視線と指の強さが増し押し倒されてしまった。
指先は大胆に、腰から背中を巡り
布地の端を掴むように絡める。
すると同時に
蒼都は陽太の両手を軽々と強く押さえこみ
逃げられないように、片手は腰を固く抑え込む
驚くように身をよじらせ
「んっ!」
と小さく声を上げる。
必死に抵抗しようとするその身体を
押さえつけ続けてくる
そのうち
蒼都の顔が首筋に近づき
荒々しく唇を押し当てた。
甘い香りと熱が混ざり合い
肩から背中にかけてはっきりと反応が走る。
「ん…っ!」
思わず肩を跳ねさせ
「兄ぃ…?」
と目を見開く。
唇は乾き、呼吸は乱れ
身体が跳ねるたびにその跳ね返りは
蒼都に全てを抑えられる
体の自由がなく動けないまま
どうすることもできない。
痺れたような感覚と強い目眩がするー
「やめっ…なんか、へん!」
だが、それを一瞬たりとも見逃さないかのように
逆に力をこめ
腰から背中、首筋にかけて
唇の動きは荒々しさを増し
陽太を完全に支配しようとする。
その時、思わず肩を噛んでしまった。
抵抗でもあり、衝動でもあり
「やめて…っ!」
という訴えそのものの衝動だった。
蒼都はその咬みつかれた肩に
一瞬痛みに顔を歪めつつも
さらに興奮を覚え見つめる眼に
強く欲情の色が濃くなる。
中途半端な抵抗は逆効果だったー
指先の動きに力を加わる。
腰が思わず本気で跳ね
唇をかみしめて抵抗を続けるも
身体は反応を隠せず
呼吸が次第に荒くなっていった。
「や…んっ!」
甘く哀しげな声が、夜の静寂に響く。
ーなんだよ、この声
自分から出た声が甘過ぎて信じられない
声がもれれば、さらに唇を首筋に這わせ
甘く、しかし荒々しく熱を置く。
指先が敏感な部位をなぞるように動く
が、腰をしっかりと押さえつけて
もう逃げられない。
その感じた事のない体温と快感の狭間で
目には知らぬ間に涙が浮かんでいた。
なぜ蒼兄は何も言ってくれないのかー?
混乱、痛み、
そして甘い快感がぐちゃぐちゃに絡み合い
理性が音を立てて崩れていく。
しかし、その刹那──
──世界が滑るように淡く揺れ、全てが遠のいていく。
そして、陽太は自分のベッドの中で目を覚ました。
汗ばんだ布団と、自分の乱れた呼吸が現実を取り戻させる。
けれど、鼓動はまだ収まらず
胸は焼けつくように高鳴っている。
頬は涙で赤く、唇には湿り気が残っている。
「……夢だったの?どこから…?」
夢と現実の境目で、ぽつりとつぶやいた。
夢の中の蒼都の手、唇、指先。
荒々しくも深い欲望。
それらがまだ彼の身体に残っているようで、胸が締めつけられる。
呼吸を整えながら
小さく震える手でシーツを握る。
そして、自分に問いかける──
「俺…どうしちゃったんだろ」
布団の中で目を覚ました
まだ夢の残り香がする薄暗い部屋にいる。
額に汗がにじみ、全身の熱がなかなか引かない。
それなのに、どこか心臓がバクバクと鳴りやまない。
「……え?」
目をぱちぱちと瞬かせながら
自分の胸元に手を当てる。
鼓動が速すぎて、何度も脈を確かめてしまう。
夢の中では覚えている---
蒼都に腰を撫でられ
首筋に唇を這わせられたあの感触。
でも……それが現実じゃないのに
どうしてこんなに体が熱いんだろう?
どうして胸の奥がざわざわして
血がざわざわと騒いでるんだろう?
小さく身体を起こそうとするが
まだ心臓の暴走が収まらず
しばらく布団の中でじっとしていた。
自分でもよくわからない。
恋? 性? そういうのにはちょっと鈍い自覚がある。
それなのに
昨日の夢では何かが起こりそうだった。
胸に触れられる感触、唇にかかる甘さ
そして自分の身体が反応していたような気がした。
「……なに…これ…?」
疑問を口にする。
言葉にしないと、どうにも落ち着かない。
え、僕って…蒼都と…そういうこと…え?
……ああ、分かんない。
でも、何かがはじまっている。
ずっと無邪気で、鈍くて
そういう意味で「弟」だった自分が
どこかで壊れかけた気がする。
意識がはっきりするにつれて
夢と現実の境界も見えてくる。
布団の匂い、部屋の温度
実際に触れていないはずの蒼都の指先が
まだ身体に残っているような錯覚。
それがまた、胸をぎゅっと締めつける。
そっと声を上げようとするけど
言葉にはできずに
布団をぎゅっと抱きしめたまま
しばらく時間を過ごす。
乱れる胸の音を落ち着けようと
ゆっくり息を吐いて、深呼吸を繰り返す。
手を伸ばしてそっと枕元のスマホに触れる。
鏡を見るように、画面の自分の顔を見てみる。
そこには、困惑と動揺
そして見たこともない顔をした自分が写っている。
「……俺、どうなっちゃったんだろう」
口に出してしまう。
答えはもちろんまだわからない。
だけど、一つだけ確かなのは――
夢の、濃密な感触が、無知だった日常を少しずつ変えようとしていることだった。
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