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第5話〜蒼都の劣情〜

※R18.エロ描写ありです。 スタジオの後片付けの音が遠ざかり 照明はほとんど落とされた。 残ったモニターの淡い光だけが 二人を静かに照らしていた。 陽太を肩に抱えて感じるその温もり。 肉体の重みではなく 安心感―― ――この距離感が、たまらなく甘くて それなのに、腰先に触れた指先に 柔らかな温かさと髪の柔らかさに 陽太の身体を意識した。 「んっ…?」 かすれた囁き声が、耳元で震える。 反射的に覗き込むと 潤んだ瞳で見つめる陽太の顔。 寝ぼけて焦点の合っていないその瞳は まるで自分だけを見ているような眼差しで 胸がぎゅっと締まり 蒼都の中で何かが揺れた 鼓動だけが響く静寂の中で ゆっくりと距離を詰めた。 指先を腰に滑らせ 背中の柔らかな曲線をそっとなぞった 布越しの体温に引き込まれそうになる そこに漂う陽太の体温と匂いが 理性をざらりと揺らす 触れてはいけない 踏み越えてはいけない—— そう自分に言い聞かせながら 指はもっと大胆に、もっと密に動きたがる。 腰から背中にそっと這い 布の端から指を滑り込ませる 苦しくて――。 「兄ぃ…?」 揺れるように陽太の潤んだ瞳。 光と影が交差する瞬間 理性が悲鳴を上げた気がした 胸の鼓動が急激に高鳴り、熱が指先へ そして顔へと逆流する。 理性が叫んでいる——“止めるべきだ” しかし身体は、欲望の渦に巻き込まれている。 そのまま 抱きしめるように押し倒し 腰にそっと圧を与えた。 逃げ出したくても逃げられないその距離感は 二人の呼吸と鼓動を一つに固める。 接触した瞬間、布の端が少し爪に引っかかり その小さな痛みさえも快感のスパイスとなり 陽太の身体がわずかに跳ねる …感じやすいカラダ… 理性の鎖がひび割れていく。 視線は白く細い首筋へと誘われ その吐息と感触に吸い寄せられるように 唇をほんの少しだけ近づけた。 ――触れたい、でも壊したくない。 そんな葛藤が胸の奥で爆発しそうになる。 そっと唇を寄せた首筋の柔らかさが また胸の奥を揺さぶる。 耳の横で息を詰まらせる陽太の吐息に その距離感に、理性は崩れかけ その渇いた吐息の余韻に 胸がわずかに震えるのが感じられた。 「蒼兄…ぃ?」 その名前を呼ぶ声に胸が締めつけられた。 顔を僅かに上げると パニックになり涙目で怯える陽太と視線が合った。 その泣きそうな表情に 理性の壁は更に薄く危うい 細い首筋に今度は唇を押し当て強く吸う 陽太の身体が跳ね、抵抗しようとする が、片手で易々と押さえれてしまった。 手を腰をしっかり抑え、逃げ場を与えない。 「ん…!」 陽太の鼻にかかる声が漏れた その瞬間に脳のどこかが焼き切れそうになり カッと体ごと熱くなる 嫌がる両手を抑え付け 甘い抵抗を発するその唇に舌を這わす 唇を離して、短く息を吐く。 潤んだ目でびっくりした表情に少し躊躇したが 衝動に突き動かされるままに 吐く息全てを飲み込むように貪った 「や…っん!」 口内を舌ごと強く吸い上げれば体が跳ね 小さく甘い吐息を漏らす陽太 激しくなるくちづけに陽太の手の力が抜けていく 震えながら涙でいっぱいの瞳 いまそんな顔されては煽られてしまうだけ… 更に首筋から肩にかけてシャツを脱がしながら 徐々に口付けていく 腰から滑り込ませた指が腰を撫でる 「…やっ!」 抵抗の声と共に肩に小さく痛みが走る 肩を噛まれたのだ だがその抵抗は弱く 蒼都の欲望をとめるには足りない。 陽太は噛んでしまった自分に びっくりしたような表情で戸惑っている…が 乱した着衣から覗く白い肌に浮かぶ 自分の付けたその赤い花弁のようなアザに誘われ 止まらないー 指先が布地に絡まり 更に肌を露わにしながら撫でる肌の感触 胸が大きく上下し甘く漏れる息が 欲望を強く脳裏を照らした 胸の奥で何かが決壊する 理性は最後の防波堤を失い 指先には僅かに力を込められる 唇を閉じても、心拍は止まらない。 甘い香りと体温が混じる不安定な距離。 その余韻が全身を満たし 頭の中が蕩けていく。 嫌がる顔を更に抑え付け 先ほどより口内を強く吸い上げた。 淫猥な音が響くことを嫌がり真っ赤になる陽太 もはや抵抗すら出来ずに 酸素を求めるかのように縋り付き しがみついている。 その震える手が愛おしくて 顔を上げてそっと陽太の頬を撫でる 間近で見る潤んだ瞳に上気した頬 一筋ながれている涙すら誘われているようで 蒼都はその唇に指を添える、と 酸欠の為か意識朦朧としている瞳が揺れるのを見て 熱いため息を吐いた 「…フゥー…」 欲望を逃がそうとするがうまくいかない むしろ昂まるばかり 陽太の妖しく濡れるその唇を指でなぞり 赤く覗くその舌に強引にその指を絡めた 口内を蒼都の指で弄られ それすら感じるのか声にもならないまま 陽太の体は反応する 「…や…ぁっ…」 指で口内を侵され口も閉じれず 唾液も声を抑える事ができない 「…んやぁ…はっ…」 その甘く切ない声が更に劣情を煽る ーそんな顔を…ッ 見たこともないその甘い表情に 感情が昂ぶり抑えが効かない 「…ッ!」 顔を背けれないように陽太の顔を掴み 無理矢理、震える唇を舌でこじ開け 陽太の吐く息もその舌ごと強く吸い上げる 「んんっ!」 力尽くで抑え付け、ただ欲望のまま口内を蹂躙する 息苦しさに逃げようとするのを体で抑え付けた 更に乱れた着衣の隙間から素肌に触れ 左手の指が胸を弄り ソコに辿りついた指に力を込めた瞬間 「んうっ!」 離した唇から糸を引くようにして血が混じる また噛んだのか… 「あ…違っ…わざとじゃ…」 更に目を潤ませ真っ赤な顔で また思わず蒼都を噛んでしまった事 怯えながら陽太は震えていた。 その泣き顔にすら感情と言葉と欲望が混じり合い 欲望が爆発しそうになる もっと無茶苦茶に泣かせてやりたい衝動 けれど── 「ご、ごめ…」 言葉を詰まらせ とうとう泣き出してしまった陽太。 その涙に少し冷静になる。 蒼都は指をゆっくり引き、唇をそっと閉じた。 陽太から距離を取り、呼吸を落ち着けようとした。 と──世界が滑るように淡く揺れ全てが遠のいていく。 そして、蒼都は自分のベッドの中で目を覚ました。汗ばんだ布団と、自分の乱れた呼吸が現実を取り戻させる。 「…夢…か…」 胸の鼓動が鳴り止まない。 指先には、まだ残る体温と匂い。 視線の奥に響く、陽太の切なげな瞳。 甘い唇の味となめらかな肌の味。 「――これは、違う」 自分への言い訳も、彼への配慮も混じって 圧力と欲望の境界線を守ろうとする理性の声が湧き上がる。 けれど、心の奥ではわかっていた。 陽太への想いは もう「弟への慈しみ」だけでは片付かない。 抑えきれない衝動も、甘い恋情も劣情も すべてがぐらりと揺れていた。 その夜、心に灯った矛盾を抱えながら 深く息をついた。 どちらを選ぶか いつまで葛藤し続けるのかはわからない。 ただひとつだけ確かなのは―― 陽太への想いは もう理性だけでは抑えきれないほどに濃く 官能的になってしまったということだった。

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