9 / 226
7
驚いたのを気取られなかったかな、と昴は赤くなった。
(馬場にいた時から、ずっと見られていたのかな?)
焦る昴を知ってか知らずか、暁斗はのんびりと話しかけてきた。
「昴さまは、馬に鼻を擦りつけられた事があられますか?」
あるわけがないじゃないか、と昴は思った。
馬の鼻先は、いつも湿っていて美しくない。
あの濡れた鼻面を擦りつけられるなんて、御免だった。
それに、そこまで馬に近づいたことさえ、なかった。
無言で首を横に振る昴に、暁斗も黙って笑顔を向けた。
そうでしょうね、と語らずとも伝えてくる。
人に笑われる事は嫌いな昴だったが、暁斗の笑顔は好きだった。
馬の鼻面を毛嫌いしている自分を、馬鹿にするでもなく、責めているでもなく。
(暁斗が持つ、独特の笑顔なんだろうな)
そう思うと、つられるように笑顔がこぼれた。
昴は、暁斗に素直な微笑みを返すことができた。
今度は、暁斗が驚く番だ。
昴の笑顔に、目を見張った。
(昴さまが、こんな表情を?)
驚いた後は、嬉しさがこみ上げてきた。
昴に優しい笑顔をもらったことを、心から嬉しく思った。
ともだちにシェアしよう!

