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 良く晴れて、風の爽やかな日。  昴は、再び馬場を訪れた。  鼻を覆わず、顔を歪めず、代わりに笑顔でやって来た。 「みんな、おはよう」  厩務員たちは、一斉に張り切り出した。 「昴さまが、またお越しだよ!」 「もう、冷やかしじゃないのね」 「実に、名誉なことだ!」  昴さまの前で、ヘマなんか仕出かせない!  そんな彼らの士気を、自分が高めているとは気づかない、昴だ。  ただ彼は、いつもと違う決意を胸に、この馬場へやって来ていた。 (やっぱり、臭うなぁ)  でも、一生懸命に馬の世話をしている厩務員に、臭いなんて言えない。  鼻をつまんだり、露骨に嫌な顔をしたりなんか、できない。  昴は、そう思えるようになっていた。  そしてついに、彼は柵の内側へと入ったのだ。 「昴さま!?」 「まさか、このような場所に!」 「その高価な靴が、汚れますよ!?」  驚き慌てる厩務員たちだったが、昴は涼しい顔だ。 「馬を、見せてくれないか」  馬糞の落ちている馬場の中まで、入られるなんて!  その上、馬を見たいと言ってくださるとは!  厩務員たちは大喜びで、一番の駿馬を引いてきた。

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